東大,光に対して安定な光分解材料を開発

東京大学の研究グループは,光と酸がそろった時のみ分解可能な高分子材料を開発し,光に対して安定でありながらも,酸の存在下で光分解できる材料を実現した(ニュースリリース)。

光分解性材料は,局所的な分解を利用した材料微細加工など,産業的にも広く応用されてきた一方,材料を光の下で長時間利用することができなかいという制約がある。

研究グループは今回,光に対する安定性と分解性という,相反する2つの性質を両立する新しい材料の開発を目指した。これを実現するための方法として,光と酸が同時に作用することで材料を分解する協働分解技術を開発した。

具体的には,高分子材料の一種であるポリメタクリル酸メチルに対して,白金錯体を架橋剤として少量導入することで,ゲル材料を作製した。この白金錯体は,メチル化シクロデキストリンを環状分子とする超分子構造を有しており,365nm の紫外光(光)と塩化水素(酸)という2つを同時に作用させた時のみ,白金-炭素結合の分解反応が進行する。

そのため,この白金錯体を含むゲル材料は,光照射下においては高い安定性を示しながらも,光と酸を同時に作用させた場合のみ,速やかに分解可能な材料であることが示された。加えて,この材料は光と酸で分解可能でありながら,光に対して安定であるという性質に着目し,材料の発光を光で制御することも実現した。

従来,ブラックライトなどの光を照射することで鮮やかに光る発光材料は,光が照射される環境下での利用を前提にしているため,光分解技術との融合が困難とされてきた。一方で,この研究は光と酸で協同的に分解しつつ,光に対して安定であるため,発光材料に対しても光を用いた制御が可能になった。

今回,分解に伴って発光色が黄色から青色へと変化する材料に対して,光と酸を用いた微細加工により文字列をプリントしたゲル材料は,白色光の下では透明でありながらも,ブラックライト(365nmの紫外光)照射下で文字列を発光色の違いとして浮き出すことに成功した。

このように光と酸による協働分解技術は,微細性や遠隔制御に優れた光加工技術を,発光材料を含む様々な「光の下で利用する機能性材料」に対して付与できることを意味している。

研究グループはこの研究によって,光分解性に基づくサスティナブル材料や,光加工に基づく機能性材料が,光の下でもより長期的に使用し続けられることで,より環境にやさしく豊かな社会の実現に貢献するとている。

※8/22 研究グループを修正しました

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