京都大学と英弘精機は,深紫外波長のレーザー光を用いて気温の高度分布を計測する,ラマンライダー用の迷光の少ない多波長分光検出器を共同開発した(ニュースリリース)。
上空の気温を地上から計測する気温ラマンライダーは,空気分子の回転ラマン散乱光のスペクトル形状が気温によって異なるという性質を用いて気温を推定する。
従来の方法は,干渉フィルターを用いて2波長のみの散乱光強度を計測することによりスペクトル形状の一部の変化を捉えるが,波長精度の高い干渉フィルターと周波数安定化のための制御装置が付いたレーザーと,光入射角などの光学系の高度な調整が必要だった。
今回開発した多波長分光検出器では,分光器とアレイ検出器により,レーザー波長を中心としてその両側に現れる回転ラマン散乱光スペクトルの形状を高い波長分解能で捉えることができ,精度良く気温を推定することができる。また,回折格子の角度を変えることで計測波長を調整でき,光学系の高度な調整技術を必要としない。
しかしながら,回転ラマン散乱光スペクトルの波長の中心に現れる強い弾性散乱光により生じる迷光が,正確なスペクトル計測を妨げ,気温推定精度を低下さていた。
そこで研究では,弾性散乱光による迷光の影響を10-7以下にまで減衰させる多波長分光検出器を開発。回折格子を用いた分光器2台を接続し,その光路中に特定波長のみを減衰させる空間フィルターを設けることでスペクトルの歪みを最小限に抑えつつ弾性散乱光を減衰させることができる。
スペクトル強度はアレイ検出器で波長ごとに計測されるので,高い波長分解能の検出が可能となり,回転ラマン散乱光スペクトルの幅が狭くなる深紫外レーザーを光源とするラマンライダーにも適用できる。
大気からの微弱な散乱光を検出するラマンライダーは,太陽光がノイズとして重なる日中の観測精度に課題があった。研究グループでは,太陽光にほとんど含まれない深紫外波長(ソーラーブラインド波長)のレーザーを用いた水蒸気ラマンライダーを開発し,通年の水蒸気量を昼夜連続で安定観測することに成功している。
この深紫外水蒸気ラマンライダーに,今回開発した気温計測部を加えて実証実験を行ない,計測された回転ラマン散乱光スペクトルが気温ごとに異なるスペクトル形状を示し,また中心付近の強い弾性散乱光が除去されていることを確認した。
ラマンライダーとラジオゾンデで観測した気温を比較し,高度約1000mの大気境界層付近まで整合した気温分布が求まることを確認した。研究グループはこの結果を活用することで豪雨の予測精度が向上し,災害の低減にも寄与するとしている。