大阪公立大学の研究グループは,金,銀,銅のナノ粒子とポリマー粒子からなる複合体がそれぞれ白,赤,青の散乱光を示すことを利用し,腸管出血性大腸菌(O26,O157)や黄色ブドウ球菌を迅速かつ同時に識別することに成功した(ニュースリリース)。
国内における食中毒事故は毎年約1千件発生し,被害者は1万人を超えており,その内90%以上は微生物を原因とする。細菌検査には培養を要するため結果は48時間後かかることから,食中毒事故の抑制のために迅速検査法の開発が切望されている。
これまで,蛍光物質や金ナノ粒子を結合した抗体が特定細菌の表面構造に特異結合することを利用して,細菌の標識化が行なわれてきたが,蛍光物質の化学安定性や蛍光寿命に課題があるほか,金ナノ粒子の表面プラズモンに基づく発色は単色であるため,複数菌種の識別は技術的に不可能だった。
研究ではまず,ポリマー粒子に多数の金属ナノ粒子が内包された構造からなる複合体(金属/ポリマーハイブリッド)が,同サイズの金ナノ粒子に比べて強い散乱光を生じることを明らかにした。
これは,複合体がポリマーを母体として多数の金属ナノ粒子が直接接することなく高密度に分散した構造を有しており,複合体内において光の吸収・散乱が効率的に行なわれているため。この複合体の散乱光は,空気中においても長期間安定であることから,安定で高感度な標識物質として機能することが期待されるという。
さらに,この複合体は,金属種(金,銀,銅)によって異なる色(白,赤,青)の散乱光を示すことを明らかにした。そこで,これらの複合体に腸管出血性大腸菌(O26,O157)や黄色ブドウ球菌に対して特異結合する抗体をそれぞれ導入し,これらを標識として特定細菌への結合性を確認した。
その結果,顕微鏡観察下において大腸菌O26は白色,O157は赤色,黄色ブドウ球菌は青色の散乱光として観察された。さらに,種々の菌種を含む腐敗肉試料に,O26,O157,黄色ブドウ球菌を所定量添加した試料を作製し,これらの標識を用いたところ,特定菌種を同時識別することに成功した。
この手法は,導入する抗体を変えることで,さまざまな細菌を標的とする標識の作製が可能となる。また,検査に細菌の培養が不要で,1時間以内に細菌の検出が可能となる。研究グループは今後,種々の標的に対応可能な複合体の開発や複合体の特性に着目した新たな検出法の開発と実用化を目指すとしている。