信州大学,東京大学,東京理科大学,埼玉大学は,遠方宇宙に存在する明るい銀河の中心核の内部構造が,周囲の広大な領域に分布するガスに対して「非等方的」な影響を与える可能性があることを世界で初めて突き止めた(ニュースリリース)。
遠方宇宙に存在する銀河中心核(クェーサー)は強力な紫外線を放射するため,銀河周辺に存在する水素ガス(銀河間ガス)を電離する。この紫外線放射が等方的であれば,銀河周辺ガスの「電離され具合(電離レベル)」は方向によらずに一定になるはず。ところが先行研究では,電離レベルが偏っていることが報告されていた。
そこで研究では,紫外線放射の方向がある程度推測できる「BALクェーサー」と呼ばれる特殊な天体をターゲットとすることで,その原因を探った。既存のデータに加え,すばる望遠鏡による新規観測を行なった結果,クェーサー内部に存在するドーナツ状の遮蔽構造(ダストトーラス)が,電離レベルの非等方性を引き起こしている可能性が高いことを突き止めた。
ダストトーラスは,クェーサーの標準的なモデル(統一モデル)に不可欠な構造。今回の結果は,ダストトーラスの存在を観測的に支持するとともに,その影響が遠く離れた銀河間ガスにまで及ぶ可能性があることを示唆するものだという。
宇宙に分布する銀河間ガスは,クェーサーや銀河から放出される紫外線によって少しずつ電離されてきた。クェーサーからの紫外線放射が「非等方的」であることは,宇宙の電離の歴史を詳細に探るうえで大変重要な情報となる。
また,今回標準的なクェーサーのモデルにおいて不可欠な構造とされる「ダストトーラス」の存在を間接的に確認した点も,クェーサーの内部構造を探るうえで重要な結果。
今回の研究は,12天体という比較的小さいサンプルに基づいて行なわれた。より強固な議論を行なうためにはサンプルの増加が不可欠なため,研究グループは,すばる望遠鏡において2024年から運用が始まる新しい観測装置「超広視野多天体分光器(PFS)」を用いることで,暗い天体のスペクトルを一度に大量に取得でき,研究においても大きな進展が見込めるとしている。