徳島大学と大阪大学は,従来法に比べ12倍以上長い時間の測定が可能な超解像ラマンイメージング顕微鏡を開発した(ニュースリリース)。
ラマン分光法は,分子の指紋とも言われる分子振動情報を反映するラマン散乱光を計測することで,試料内の分子の種類や状態の空間分布を可視化する。その中でも,超解像ラマン顕微鏡(TERS)は,ナノサイズに先鋭化した金属探針の先端に発生するナノ光源を利用することで,ナノメートル空間分解能での超解像ラマンイメージングが可能。
TERSは電子デバイス材料表面の欠陥構造の同定や,単一タンパク質の機能解析など,様々な分野での応用が期待されている。しかしながら,従来のTERS顕微鏡は,周囲の環境の微小な温度変化や振動によるドリフトの影響により,長時間安定に測定を行なうことは困難だった。
そのため,従来の超解像ラマンイメージングは,ラマン散乱光が強い試料(カーボン材料など)の観察や,狭い測定領域(数万nm2程度)での観察に限られていた。これまで,超解像ラマンイメージングに
よる電子デバイス材料が有するナノ欠陥構造のデバイス規模の範囲(数百万nm2)での評価や,ラマン散乱光の微弱な生体分子の観察が強く求められてきた。
長時間安定した測定を行なうには,入射光の集光位置を常に試料上に固定することと,金属探針を入射光の中心に常に留めておくことが必要だった。今回,研究グループは,入射光の集光位置と,金属探針と入射光の相対位置をそれぞれリアルタイムで補正する機構を新たに開発した。
開発した機構では,基板からの反射光を2次元光検出器で検出することで集光位置の変位量を検知し,対物レンズに備え付けた精密ピエゾ機構でフィードバック制御することで,集光位置を常に試料上に固定できる。金属探針の位置は,レーザーを金属探針付近で高速スキャンして得られる散乱光画像から検出し,探針の中心にレーザーをフィードバック制御することで,常に探針が入射光の中心に配置されるように補正できる。この2つの機構をTERS顕微鏡に導入することで,従来法と比べて12倍以上長い時間での超解像ラマンイメージングを実現した。
開発した超解像ラマン顕微鏡を利用して,原子層物質,二硫化タングステン(WS2)の超解像ラマンイメージングを行なった。電子デバイスと同規模の面積範囲内(4,000,000nm2以上)に存在するナノサイズの欠陥構造を同定することや,欠陥占有率を評価することに世界で初めて成功した。
デバイス規模の領域において欠陥評価を可能にするこの手法は,これまで関連づけられていなかった電子デバイスの性能と欠陥分布に関する有意な情報を得ることができる。研究グループは,脂質二重膜や生細胞などの長い測定時間を要する生体分子への応用も期待されるとしている。