理研,THz-QCLの高出力化に成功

理化学研究所(理研)は,「テラヘルツ量子カスケードレーザー(THz-QCL)」の高出力化に成功し,ピーク出力1.3W,平均出力52mWを実現した(ニュースリリース)。

研究では,量子カスケード活性層に高濃度ドーピング層を導入するとともに,電子リークを低減するためバリア層の高さを調節することでTHz-QCLの高出力化を試みた。

シミュレーションでは,1周期が4層の量子井戸で構成されるQCL構造を用い,一番幅の広い「電子引き抜き層」にドーピングを行なった。ドーピング量を増やして各量子準位の電子数を増やせば高出力化が可能になる。しかし,ドーピング量を増やすと空間的な電子濃度分布も大きくなり,それによってバンドの歪み(曲がり)が生じる。

バンドの曲がりが生じると,レーザーの発振準位へ電子が注入しにくくなり,レーザー出力が低下してしまう。そこで研究グループは,高濃度にドーピングを行なってバンドが曲がった場合でも,適切な量子準位のエネルギー配置が保てる構造を,非平衡グリーン関数法(NEGF法)を用いた厳密解法で精度良く設計した。

計算の結果,バンド曲がりによる修正がない場合の光利得は,ドーピング量を増やしても増加しない。一方,最適設計構造における光利得はドーピング量の増加とともに増加し,ドーピング量を従来の3倍程度にすると,1.5倍程度増加することが分かった。

研究グループは,THz-QCLの動作において,レーザーの発振準位から水平方向に電子がリークし,光利得が大幅に低減することを明らかにしている。そのため,今回は隣接するモジュールの高位のリーク準位を上方にシフトさせることで,水平電子リークを遮断する構造を取り入れた。

この構造を実現するために,1周期の四つのバリア層を全て組成の異なるAlGaAs層で構成し,また四つの量子井戸層にはGaAs層のほかに,Al組成が2%および4%のAlGaAs層を導入する設計とし,THz-QCL素子を作製した。高出力を得るために,超格子活性層全体の厚さは14μmと厚めにし,また導波路構造は片面金属導波路構造を採用した。

パルス動作で電流注入を行ない,レーザー発振を4.18~4.25THzで観測した。4種類のうち,面積の大きい共振器(長さ3mm,幅580μm)の素子で高出力が得られ,測定温度5K(-268℃)のときに最高ピーク出力1.31Wを観測し,高反射ミラーなどを使わないシンプルな基本構造を持つTHz-QCLの出力としては世界最高値を得た。

研究グループはこの成果が今後,透視検査や無線通信,THz-LIDARなどの応用に向けたTHz-QCL光源の実用化に貢献するものとしている。

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