東京大学と筑波大学は,分子軌道混成を強く反映したバンド構造により高移動度を発現する有機半導体を開発した(ニュースリリース)。
パイ電子系分子からなる有機半導体は,室温付近で塗布法により成膜できることや,軽量性,フレキシビリティに優れるなどの特長から,近未来のハイエンドデバイスへの応用が期待されている。そのためには高移動度を示す有機半導体が必要であり,理論計算・デバイス評価によるキャリア輸送能の理解から分子設計の高度化が求められている。
今回,中央に窒素が導入されたピラジン縮環N字型パイ電子系分子C10Ph−BNTPを開発し,結晶構造解析,理論計算およびデバイス評価を包括的に行なうことで,フロンティア軌道である最高被占軌道(HOMO)だけでなく,それに続く第二HOMO(SHOMO)や第三HOMO(THOMO)の混成により高移動度を示すことを明らかにした。
今回明らかとなったHOMO/SHOMO/THOMOの分子軌道混成は,
(1)HOMO/SHOMO、HOMO/THOMO間の分子軌道エネルギーが近いこと
(2)HOMOとSHOMO、THOMOの軌道形状が似ていること
に起因するものであり,C10−DNBDTやC10Ph−BNTPの場合,特にHOMO/THOMOの軌道形状が似ていることが分子軌道混成に大きく寄与したという。
研究グループは,この成果により,分子軌道混成を積極的に活用した新しい指針の下,高性能有機半導体の開発が発展し,安価で環境に優しいハイエンドデバイスや,未利用エネルギーを活用するエネルギーハーベストなど,有機エレクトロニクス分野の研究開発を加速することが期待されるとしている。