東北大学の研究グループは,眼科検査画像に対する新たな人工知能(AI)のモデルを開発した(ニュースリリース)。
人工知能(AI)の仕組みの一つである深層学習(ディープラーニング)において,通常,物の形状の抽出では輪郭の正確さはそこまで問題とならないことが多いが,病気の診断のために,異常がみられる部分の大きさを測定する場合には,その精度が非常に重要となる。
我が国において,医療資源の不足はますます深刻化していくことは明らかな中,今後,日常の健康管理,自己検診や遠隔診療に至るまで,小型機器でのAIのニーズは高まっていくことが予想される。
眼科の検査では,眼底写真と呼ばれる目の奥を映した写真と,眼の断面を調べる光干渉断層計の画像が広く用いられる。しかし,これらの画像の中で特定の部分を精確に計測するAIのモデルを作成しようとするととても大きな容量となり,スマートフォンなどの小型機器への組み込みへの障害となっていた。
今回,研究グループは,スマートフォンなどの身近なITデバイスに搭載できるくらい軽量で,医療画像の診断にも簡単に適用できるようなAIモデルを新たに開発した。このAIモデルでは,従来の容量の大きいモデルと比較して,同等以上の疾患の検出能力をもち,また疾患の特徴をAIが学習するために必要なデータの数も少なくて済む。
このAIモデルでは,モデルの容量を決めるパラメータの数が,現在広く用いられているUnetと比較して10分の1のサイズとなっている。一般的にモデルの容量を小さくすると,その性能が下がる傾向があるが,このモデルのDice係数は,UnetやDeepLabV3+と比較して同等以上の精度が得られたという。
さらに光干渉断層血管撮影における中心窩無血管域のセグメンテーションによる緑内障検出精度は,既存のソフトウェアによる検出精度と比較して優れた結果が得られた。モデルの容量を軽減するのに寄与しているチャネルナローイングの手法は,形状の抽出だけでなく,疾患の診断予測でも良好な結果を得ることができた。これまでに,このモデルを利用して小型機器でも緑内障が鋭敏に検出できること,眼底写真に写る特定の部位や出血している場所の境界を高い精度で描出できることを確認したとする。
研究グループは今後,このモデルを活用し,緑内障をはじめとした眼の病気を,眼科を受診する前の段階で,身近な場所での自己検診を通じた早期発見,早期予防ができるような社
会実装への応用が期待されるとしている