京都大学の研究グループは,駆動中の小型原子炉において,法令基準よりもはるかに微量な放射性ガスの流出の動画検出に成功した(ニュースリリース)。
放射線を発生する原子力施設や加速器施設内および施設外縁部では異常が発生したその場所で,かつ初期の小さな段階で検知できれば施設の安全性は飛躍的に向上する。環境放射線よりはるかに微弱な線量変化を画像として迅速に捉えるガンマ線のイメージングモニタリング技術が必要となる。
しかし,ガンマ線の画像化は福島第一原子力発電所(1F)事故の後,周囲の放射線環境より強い放射線源の位置がわかる疑似的画像法によるガンマ線カメラが一部で使用された程度で,数10mの近距離内でしか線源が見えず,検出されたガンマ線源の定量的線量解析や空間的な広がりもわからないため,使用できる場面は限られていた。
研究グループは2017年にガンマ線の方向を決定でき,光学レンズと同様に計算機上で集光するガンマ線の完全可視化を実現した。具体的には,光学カメラと同じ原理の画像が得られる電子飛跡検出型コンプトンカメラ(Electron-Tracking Compton Camera,ETCC)を開発している。
これによって福島の汚染地区を撮像し,セシウム汚染の広がりや大気からの散乱ガンマ線を世界で初めて画像化した。しかし当時は装置の感度も低く,原理実証がやっとであり実用にはいたっていなかった。
その後,太陽系外の宇宙からのガンマ線の直接観測に成功。さらに1Fの原子炉全景を含む1km 四方を一度に撮像し,100か所以上のガンマ線スペクトルを得ることにも成功している。その成功を受け,稼働中の小型実験用原子炉の建屋内の撮像も実施した。
原子炉内では,稼働時には内部の空気が放射線に当たり,空気中のアルゴンの一部が放射性同位体アルゴン41に変わり,一部はごく微量だが原子炉外に放出される。その量は最大でも瞬間で法定基準の5分の1以下で,時間積算すれば数100分の1という微量だが,そのような微弱な線量変化であっても,ETCCは動画として撮像に成功した。
動画のため放出箇所やその後の空気中への拡散が瞬時にわかる。この線量は原子炉建屋内線量の100分の1以下で,他のカメラでは検出が不可能だという。今までアルゴン41の放出は広く知られていたが,あまりに微弱で従来の技術では測定も困難なため放出箇所などの詳細は不明だった。
今回,原子炉の微量な変化がオンライン画像でモニタリングできることを示した。研究グループは将来,放射線施設の安全管理に貢献したいとしている。