京大,開発した画像化手法で宇宙の軟ガンマ線検出

京都大学の研究グループは,天体観測から重元素の生成や宇宙線加速の起源を解明することを目的に,軟ガンマ線完全画像化方法に基づいた電子飛跡検出型コンプトン望遠鏡 (Electron-Tracking Compton Camera,ETCC)を開発した(ニュースリリース)。

物質を構成する元素が宇宙のどこでどのように作られたのかは未だ大きな謎となっている。安定な元素と一緒に放射性同位元素(radioisotope,RI)が作られ,このRIから軟ガンマ線(天文学用語。一般に放射線のガンマ線と同じ意味で用いる)が放射される。

この軟ガンマ線は,宇宙や銀河の年齢よりはるかに短いRIから放射されるため,宇宙でまさしく今元素が作られている現場が唯一直接観測可能な帯域とされ,50年以上前から注目されている。

しかし,宇宙線由来の雑音の中から軟ガンマ線のみを取り出すための,光学原理に基づいた確立した画像化手法が,電磁波の種類の中では唯一存在しないことから,他の波長域と比べて観測が大幅に遅れ,天文学では唯一の未開拓領域と言われてきた。

研究グループは,軟ガンマ線完全画像化方法を採用した望遠鏡を開発・気球に搭載しての実証および科学観測を行なうSMILEプロジェクトを進めている。軟ガンマ線は波長が非常に短く粒子性が卓越するが,この光の粒(光子)が電子に衝突すると光子の持つエネルギーの一部を電子に与えて弾き飛ばす,コンプトン散乱を起こす。

ここで,コンプトン散乱により発生した電子と散乱後の光子のそれぞれの運動量を測定すれば,運動量保存則に基づいて元の光子の入射方向とエネルギーを得ることができる。電子飛跡検出型コンプトン望遠鏡(Electron-Tracking Compton Camera,ETCC)は,この方法で測定した個々の光子の入射方向ごとに積算し画像化する。

研究グループは,このETCCを用いて軟ガンマ線天体観測を実証すべく,2018年にJAXAの気球に搭載してオーストラリアから打ち上げ,南半球の空を約1日間観測した。過去,欧米の巨大衛星では約10年を費やし銀河中心方向からの軟ガンマ線放射を間接的に検出したが,研究ではわずか1日で直接検出に成功した。

研究グループは今後,ETCCによるさらなる観測で銀河中心方向の軟ガンマ線放射の起源を解明することにより,宇宙初期の密度揺らぎから生成された原始ブラックホールや暗黒物質の存在に迫るという。

また,ETCCによる軟ガンマ線可視化技術は宇宙天気予報や月・火星の資源探査や医療応用・環境モニタリングなど,多岐に渡る貢献が期待されるとしている。

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