海洋研究開発機構(JAMSTEC)は,水中光無線通信装置を用いることで海底に設置した観測システムから,自律型無人探査機(AUV)による観測データの自動回収に成功した(ニュースリリース)。
海水中では電波も光も届かないことから,海底設置型の観測装置の観測データの回収には装置本体を回収するしか手段がなく,回収して再設置するコストが大きいことが課題の一つとなっていた。
また,装置を船舶で回収した後に洋上から自由落下させて再設置する従来のやり方では,観測条件の不連続性は避けることができず,こうしたことに起因するデータの質の低下が避けられなかった。
これまで研究グループは島津製作所らと共同で,水中において光無線通信を可能とする技術開発を行なってきた(1,2)。今回,培った技術を活用し,深海底付近で自律航行が可能なAUVと,水中でWi-Fi接続を確立する水中光無線通信装置を用いることで,海底設置型の観測装置からデータのみを回収する手法(ハーベスティング)を試みた。
相模湾内の水深1,420mの深海底に,海底設置型観測システム「FFC11K」を設置し,これに向けてAUV「AUV-NEXT」を自律航行にて接近させ,これらに搭載した光通信装置によるデータ回収を試みた。
回収するデータは,FFC11Kに搭載している4Kカメラによって観測した深海底の映像を対象にした。巡行型のAUVは海底へ接近することが苦手であり,また低速で運動性能が低下することから,AUVは高度と速度を保ったままFFC11Kの上方を通過する。
このAUVが通過するわずかな時間(約10秒間)でも光通信を用いておよそ130KBの深海画像データを複数回収することに成功した。これは,世界で初めての事例だという。これら一連の作業は,AUVに目標点への接近を指示すること以外はすべて自動で行なわれた。
今後,深海底観測にこの手法を導入することができれば,海底ケーブルがない海域でも船舶による装置回収を必要とせず,任意のタイミングでAUVによる自動データ回収ならびに、同じ場所での継続観測が可能となり,水圧計等を用いた海底地殻変動観測など,高頻度なデータ回収が望ましい研究分野への貢献が期待できるという。
また,今回の成功により,最終的な目標である,基地岸壁から出航したAUVが海底の多数の観測装置を自動で巡回し,観測データのみを回収して再び基地に戻るという「海底観測の自動化」に向けて大きく前進したとする。
研究グループは今後,通信装置の改修やデータ回収手法の改良を進め,更にシステムの高度化を目指していくとしている。