浜松ホトニクスは,独自の光制御技術と空間光制御デバイス(Spatial Light Modulator:SLM)を用い,2光子励起蛍光顕微鏡の空間分解能を向上させる技術を確立した(ニュースリリース)。
脳神経科学や生物学,医学などの分野においては,脳などの厚い生体試料のより深い位置を鮮明に観察することが求められる。2光子励起蛍光顕微鏡は,生体透過性の良い近赤外光を利用するため,可視光による従来の蛍光顕微鏡と比べ試料の深い位置にまで光が届く。
一方,深部ではレンズの特性や試料によって収差が発生し分解能が著しく低下することから,ホログラムパターンを入力することで収差を打ち消すことができるSLMを搭載した2光子励起蛍光顕微鏡の実用化が進められている。
このような中,大学や研究機関などからは,試料の深部をより細かく観察するため分解能の向上が求められており,同社と浜松医科大学は分解能向上技術の確立とその応用に取り組んできたという。
同社はこれまで,ホログラムパターンをSLMに入力し収差を補正することで,生体試料の表面から約200μm以上の深部を鮮明に観察する技術を開発してきた。今回,独自の光制御技術を基に,ホログラムパターンのリングの数や形状などを検討し,より分解能を向上させる最適なパターンを見いだすことに成功した。同時に,偏光を制御する光学部品を組み合わせることで分解能をさらに高めた。
この成果によって,光学部品を1点追加し最適なホログラムパターンを入力することで,顕微鏡の光学系を大きく変更することなく分解能を約20%向上させることが可能となるとする。
この成果を応用し,脳神経科学や生物学などの幅広い分野に向け実用化が進められている,SLMを搭載した2光子励起蛍光顕微鏡の分解能を高めることで,生体試料の深部までを鮮明かつ高い分解能でより細かく計測することが可能となる。
この結果,細胞を構成する小器官の状態の変化を高い精度で観察できることから,脳機能の研究や腎臓病をはじめとする疾病の原因解明などへの応用が期待できる。また,将来的には治療楽の研究開発への応用も期待される。同社では今後,分解能をより高めるとともに実用化に向けた研究開発を進めるとしている。