岡山大学,大阪公立大学,量子科学技術研究開発機構,名古屋大学,京都大学,新潟大学は,ナノダイヤモンド量子センサの利用に適したバイオ分析チップデバイスを開発し,細胞や組織切片・線虫など様々な生体試料において,量子センサ信号を設計通りに再現性良く検出することに成功した(ニュースリリース)。
核酸や蛋白質といった生体分子や細胞の特性を調べるバイオ分析技術では,検体量の節約や操作性・再現性向上の観点からガラス基板上や,それを組み込んだマイクロプレート内で試料分析を行なうことが望まれる。
このようなバイオ分析デバイス内に,近年急速に開発が進むナノダイヤモンド量子センサを導入して,分子や細胞の僅かな変化を捉えようとする研究が進んできた。しかしながら,量子センサを設計通りに効率よく動作させるためには,ダイヤモンドの電子スピンを駆動するマイクロ波照射回路をガラスチップ上に集積化する設計技術が必要となっていた。
研究では,ミリメートルサイズの照射領域を有しつつ,400MHz以上の広帯域で効率的なマイクロ波近傍場照射が可能な高周波回路構造を数値解析によりモデリングした。これまでのマイクロ波照射技術では,照射領域・周波数帯域・マイクロ波強度の3要素を同時に実現することが特に困難だったが,伝送線に意図的な凹みを組み込んだ「ノッチ構造」であれば,これらの要求を満足させることが可能であることを見出した。
また,マイクロ波への給電経路を詳細に分析し,工学的な視点で経路の再設計を行なった。この構造を用いて実際にガラス基板上の蛍光ナノダイヤモンド量子センサの光検出磁気共鳴信号を測定してみると,数値計算による予測値と非常に良い一致が再現性高く得られた。また,細胞(ガン細胞・幹細胞)や組織切片,線虫といった生体試料に適用した場合も,事前に予測された設計通りの磁気共鳴信号が得られたという。
この研究によって,量子センサを利用したバイオ分析チップデバイスの仕様を確実に設計・予測し,デバイスを作製することが可能となる。近年のバイオ分析チップは,生体試料の分析以外にも,マイクロ流路内に細胞を培養して臓器モデルを構築する「臓器チップ」などの応用が進んでおり,研究グループは,医学・生命科学研究において量子センサをより手軽に利用できるようになるとしている。