京大ら,DNA光回復酵素のFAD光還元反応を解明

京都大学,台湾中央研究院,独フィリップ大学,大阪大学らの国際研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAのBL2ビームラインを用いて,DNA紫外線損傷を修復するDNA光回復酵素の光還元反応時における動的構造を,時分割結晶構造解析にて初めて解明した(ニュースリリース)。

DNA光回復酵素は,紫外線曝露により生じるDNAピリミジン二量体の損傷を修復する。この酵素は,反応に青色の光を必要とし,酵素の反応中心にあるフラビン補酵素(FAD)がフォトンを捉えると,近傍のアミノ酸残基から電子を受け取ったのち,1回目の反応サイクルで酸化型(FADox)からアニオン性セミキノン型(FAD・-)を経て中性セミキノン型(FADH・)に,2回目の反応サイクルで還元型(FADH-)に変化し,酵素によるDNA修復の準備が完了する。

この反応は,光還元反応と呼ばれている。今回研究グループは,DNA光回復酵素の光還元反応における反応中間体の立体構造を,原子レベルの分解能で決定することに初めて成功した。

研究グループは,SACLAでのXFEL時分解構造解析により,古細菌のDNA光回復酵素をターゲットに,光還元反応における10ナノ秒から5ミリ秒までの異なる時間のスナップショットを集め,複数の酸化還元状態のFADとそれを支えるタンパク質のアミノ酸側鎖の動的変化を3D動画として作成した。

この3D動画では,酸化型と中性セミキノン型の2種類の酵素を時分割実験の出発材料として準備することで,それぞれのサイクルで時々刻々と変化する補酵素FADおよびタンパク質の様子を捉えた。

青色光によって光還元反応が始まった後,平坦な形状であるFADoxがナノ秒以内に歪んだ形状へと変化し,蝶の羽ばたきのように動く。さらに,補酵素の近くにあるアミノ酸残基がこのFADの動きを安定化させ,強いねじれを特徴とする最初の半安定中間体であるアニオン性セミキノン型(FAD・-)へと変化することが見出された。これは「バタフライツイスト」と名付けられた構造で,今回初めて発見された。

「FAD・-」はプロトン(H+)を供与されて中性セミキノン型(FADH・)となり,さらに2回目の光還元反応によって「バタフライ型」の構造を持つ最終生成物である還元型FADHへと変化する過程も観測に成功した。

フラビン補酵素(FAD)は,全ての生命に必須の基本補酵素。今回の研究は,化学反応における反応中間体の性質や構造を経時的に詳細に解析することで,基礎化学の理解に大きく貢献するもの。

研究グループはさらに,反応物でも生成物でもなく,「反応中間体」という酵素の真の活性状態に基づいて合理的に触媒を設計するための第一歩となる成果だとしている。

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