熊本大学の研究グループは,自己組織化することが知られている分子群(チオール分子)を金基板上で自己組織化させずに特定の位置に吸着させる手法を見出した(ニュースリリース)。
炭素骨格から成る2次元シートのグラフェンは,電子デバイスや燃料電池の分離膜材料,センサ研究など広く展開されている。
より高度な加工を行なうことで更なる新機能の発現が期待されるが,このグラフェンに規則的かつ均一なサイズの穴を空けることは技術的に難しい。一方で,ナノサイズで構造が規定された「ナノグラフェン」は,その形状やサイズを有機合成によって制御できる。
そこで研究では,ナノグラフェンの中でも低分子量であり低対称性構造を有する「オバレン」に着目し,その単分子膜の構造の理解とチオール分子の化学吸着へ展開した。
オバレン単分子膜は,有機溶媒中に溶解したオバレン溶液に金単結晶基板上を所定時間浸漬することにより作製した。その後,電気化学トンネル顕微鏡を用いて水溶液中にて電極表面での構造のナノスケール観察を行なった。さらにこの溶液中に所定電位でチオール分子を投入して,観察を続けた。
その結果,酸性溶液中,電極の電位によってオバレン単分子膜の構造が変化することを突き止めた。隣り合うオバレン分子が60°ずつ回転していることがわかり,この規則的な回転によってオバレン分子3分子が形成するナノスケールの空隙(およそ0.3nm)が形成される。
これは金原子1個分のサイズであり,チオール分子のイオウ部位が吸着するのに適したサイトになるため,ここにチオール分子一分子だけが吸着する。吸着率の差はあるものの,チオール分子の末端にカルボン酸,ピリジン,ピラジンといった機能部位を有する分子群はいずれも等間隔で孤立した状態を示した。これは,物理的な吸着で形成されるオバレン単分子膜と金とイオウの結合形成による化学吸着がバランスされた結果得られた共吸着構造だという。
今回の成果は,原子や分子一つ一つから物質や構造を任意に作り上げていく「ボトムアップ」式の構造制御によるもの。この研究は基礎物性のひとつを見出したものだが,研究グループではこれは見方を変えれば「一分子を捕捉する究極のセンサ」であり,また孤立化された分子物性の解明をはじめその精密な分子デザインにより,分子レベルのパターニング,3次元ナノ構造体形成のための土台として,新たな電子デバイスへの展開が期待されるとしている。