新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業において,ファームシップは実際の植物工場で生産されたレタスの重量を開発したアルゴリズムで推定する実証試験を実施し,実測値に対して高い推定精度であることを確認した(ニュースリリース)。
植物工場は露地栽培に比べて天候に左右されず,また狭い耕地で安定的に生産できることから,近年は野菜の生産量が著しく伸びている。しかし植物工場でも生育環境を完全に均一にすることは難しく,成長速度には個体ごとのばらつきもあることから,植物工場における生育状況の効率的な把握・管理が課題となっていた。
今回開発したアルゴリズムは,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を利用したObject detectionという手法と,重量密度をCNNに学習させることで,CNNが重量密度を予測できるようにした回帰分析手法を組み合わせている。
実証試験では,20個のレタスが部分的に重なった画像から個々のレタスの矩形(長方形)面積を正確に抽出し,相関係数0.76(完全一致は1,相関関係がなければ0)と高い連動性で個々のレタスの重量を推定することに成功した。
通常,CNN画像を学習するには,正方形に変換する必要がある。しかしその際に,元々のレタスの大きさの情報が失われてしまう課題があった。このためこの手法では重量密度を推定して最後に矩形面積を乗じてレタスの重量を算出することで,矩形の大きさの情報を生かしてより正確な予測をすることができるようにした。複数のレタスを同時に,かつ非接触・非破壊で計測できることから,栽培途中でも効率的に個体ごとの重量を推定することが可能となる。
今後,NEDOとファームシップはこのアルゴリズムを用いて,植物工場での植え替え作業時にレタスを撮影して生育状況を推定し,個体ごとの重量を揃えて栽培できるシステムの実現を目指す。さらに,この事業の一環で開発中の需要予測技術および成長制御技術と組み合わせることで,高精度な需給調整の実現を目指す。
ファームシップは2023年度以降,このシステムの実用化に向けて検討を進める予定。このシステムの実用化により,将来は規格野菜を無駄なく出荷できるようになるという。同時に露地栽培に比べ生産コストが抑えられるため,消費者は植物工場で生産した高品質な野菜がより安価で入手可能になる。また,効率的な生産によって無駄になっていたエネルギーも削減でき省エネ化にも貢献するとしている。