静岡大学の研究グループは,テラヘルツ波を利用した廃プラスチック識別装置の開発の開発に成功した(ニュースリリース)。
テラヘルツ波の周波数はプラスチックを構成する分子鎖間の振動数に相当し,テラヘルツ帯の誘電率はプラスチックの素材だけでなくひずみや劣化にも敏感である。つまり,テラヘルツ周波数帯におけるプラスチックの誘電率は素材や添加剤混入により透過率や反射率,共鳴吸収のピーク位置が異なることから,素材や添加剤の分類に基づく分別ができる。
そのため,現在のリサイクル現場で分別できずに困っている「着色プラ」と「難燃剤」について,テラヘルツ波による識別が可能。テラヘルツ波は長年,発生と検出が困難であった電磁波だが,この領域でのデバイス・機器が近年実用化されつつある。例えば,ミリ波の領域に近いサブテラヘルツ波としては車の自動運転(0.076THz)などの活用が始まっている。
研究グループはファイバーレーザーを励起光源とするGaP結晶を用いる独自光源(テラヘルツ分光モジュール)を開発しており,広帯域における複数のテラヘルツ波による識別には,機械学習等の手法を活用し,高い精度で識別可能な装置を開発している。
研究では,実際の廃プラ(1,416 サンプル)を,近赤外分光測定等により組成分析を行ない,廃プラのバックデータを蓄積した。廃プラ種類のビックデータを解析することで,地域特性があることをはじめ,従来手法である近赤外分析では黒色プラや透明なプラが測定できないことが判明した。
今回,開発した識別装置では,透明プラ,黒色プラの測定が可能であり,かつPSやPETといった素材ごとの計測結果に明確な差異が見られ,識別可能であることが明らかになった。また,機械学習等のアルゴリズムを用いて識別した結果,識別に使用するサンプルサイズが大きいほど識別精度が高まることを確認し,現場の廃プラ組成に適合し,既存の識別装置よりも優れた識別性能が期待される識別アルゴリズムを開発している。
この装置は,テラヘルツ周波数帯における誘電率に基づく透過率/反射率の違いから素材や添加剤ごとの識別が可能で,廃プラの素材毎の選別精度が上がることによって,高度なリサイクル(マテリアル,ケミカル)が実現できる。
また,テラヘルツ波は直進性を併せ持ち,着色プラスチックに隠れて見えないリチウムイオン電池などの金属を検出できることから,研究グループはリサイクル現場の火災防止にも役立つとしている。