名古屋大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA),東北大学,電気通信大学は3月5日,米航空宇宙局(NASA)の観測ロケットLAMPの打ち上げを行ない,激しく変化するオーロラに命中させ,オーロラが光っている場所での電子や光,磁場の詳細な観測に成功した(ニュースリリース)。
オーロラの形態の中に「脈動オーロラ」と呼ばれる数秒ごとに明滅するオーロラがある。
「脈動オーロラ」は,オーロラ爆発の後に普遍的に見られるが,更に1秒間に数回瞬く「明滅オーロラ」もある。近年,日本の衛星観測によって,「脈動オーロラ」は,「コーラス電波」と呼ばれる宇宙空間の電波が,数キロから数十キロ電子ボルトのエネルギーを持つ電子を変調させ,その結果,電子が大気に降り込むことによって発生していることなどが明らになった。
しかし,「脈動オーロラ」の発光層の広がりや,オーロラの瞬きと降り込む電子との関係,さらに「脈動オーロラ」に伴って降ってくる電子の上限エネルギーなどは未解明だった。
近年,研究グループによって,「脈動オーロラ」が起きている時,同時に「キラー電子」と呼ばれる,エネルギーが数百キロ電子ボルト以上の超高エネルギー電子も同時に降ってきている仮説が示された。
この「キラー電子」は,「脈動オーロラ」が起きているよりも低い高度数十kmの中層大気まで入り込み,その場所のオゾンを破壊する可能性がある。しかし、「脈動オーロラ」と同時に「キラー電子」を同時に計測した例がなく,両者が本当に関係しているかどうかは実証されていない。
研究グループは,観測ロケット,LAMPによる実験の提案をNASAに行ない,採択された。観測ロケット搭載機器の開発で日本側は,磁力計(名古屋大学),光学観測(東北大学),電子観測(JAXA)を開発し搭載した。
同時に研究グループは,アラスカ北方にオーロラ高速撮像用のカメラ群を展開した。そしてLAMPロケットは,オーロラ爆発に引き続き発生した「脈動オーロラ」に向けて打ち上げられ,「脈動オーロラ」に突入して観測することに成功した。
初期的な分析からは,ロケット搭載の各観測機器が順調に稼働し,観測データを取得したことが確認された。また,地上からのオーロラ観測によって,実験時には,アラスカの広い範囲において,高速に変化する「脈動オーロラ」が出ていたことも明らかになった。
「脈動オーロラ」に観測ロケットを正確に命中させることはきわめて難しいが,実験では理想的な状態での観測に成功した。今後,脈動オーロラの変調機構,さらには「キラー電子」との関係が明らかになることが期待されるとしている。