北海道大学,関西学院大学,エストニア タルトゥ大学は,加熱すると簡単に融けて膜になり,自由に発光をON/OFFできる新たな白金錯体材料を開発した(ニュースリリース)。
金属錯体と呼ばれる金属と有機物からなるハイブリッド材料は分子設計次第で高い効率で光らせることができ,またその発光色も簡単に制御できることから,効率的な発光体の基盤として注目されている。
しかし,大面積ディスプレーやパネルを作るために光る金属錯体を膜化しようとすると,多くの場合には高温や高真空,または多量の有機溶媒などが必要だった。
このような高温・高真空や有機溶媒を使わずに穏やかに膜化するための手段として,光る金属錯体をより低い温度で融かして液体にする研究が行なわれてきた。ただし,その多くは
あまり効率的な発光を示さず,刺激で発光をコントロールできるものはほとんどなかった。
研究では,融点が低くて刺激に応答する発光性金属錯体を開発するために,陰イオン性の白金錯体に対して非対称な長鎖アルキル基をもつ陽イオンを導入した。白金錯体は明るく光
りやすいことや,外部環境によって発光が変わりやすいことが知られている。この白金錯体に非対称な陽イオンを導入することで,融点が下がることや,融点を迎えても結晶化の速さが遅くなることを期待した。
今回開発した白金錯体は室温で明るい緑色発光を示すが,熱すると53℃という低い温度で融け,それによって発光が消えることがわかった。このため,この錯体は家庭用ドライヤーの熱でも簡単に融かすことができ,穏やかな条件で薄い膜にすることができる。
さらに,この液体は室温まで冷やしてもすぐには凍結せず「過冷却液体」になり,一晩かけてゆっくりと凍ってふたたび明るく光るようになった。このことから,開発した錯体は熱を感知して発光をON/OFF スイッチできるということが判明した。
さらに,このような「過冷却液体」は衝撃を与えると凍りやすいことが知られている。そこで,この錯体を融かして得られた過冷却液体の膜を引っかいたところ,その部分だけがすみやかに凍結して光るようになり,引っかいた刺激を「見える化」することにも成功した。
光る金属錯体の性質は金属イオンや配位子を変えることで様々に変わるため,研究グループは,他の光る金属錯体に対しても今回のような方法を使うことで,ほぼ100%に近い超高効率の発光デバイスの簡便な作成や,温度・蒸気・磁場などの外部環境を「見える化」する光学センサーの合理的設計など,様々な光材料への応用展開が期待できるとしている。