京都大学の研究グループは,テトラピリジルポルフィリンが分子間で形成する配位結合を利用することで,垂直配向を実現した(ニュースリリース)。
機能性分子を二次元的に敷き詰めた有機薄膜は,有機薄膜太陽電池をはじめとする機能性デバイスの要で,膜中での分子配向の自在な制御は,自由な物性制御の鍵となる。これまで,分子の自発的な二次元集合の発現には,水素結合や分散力が主として用いられてきた。また,薄膜支持基板の表面と薄膜間の相互作用にπ–π相互作用を取り入れ,基板表面をグラフェンで被覆する工夫などもなされてきた。
しかし,これらのアプローチは分子の基板に平行な配向(face-on配向)を得る目的で使われており,多環芳香環の平面を基板に垂直に向けたedge-on配向を実現する制御手法は開発されていなかった。
研究では,テトラピリジルポルフィリンを配位結合によって強く分子間相互作用させ,被覆なしのシリコン基板上にedge-on配向させることに初めて成功した。この際,ポルフィリンの中心金属を二価のFe,Co,Ni,Cu イオンで系統的に変えた化合物を合成し,配位結合の主体を担うdz2軌道の電子数を系統的に変えることで,ピリジル基の窒素の不対電子の受容性を制御し,配位結合の強さの制御が叶うかどうかを検討した。
その結果,受容がもっとも進むFe2+を中心にしたとき,狙い通りのedge-on配向が実現することを,二次元微小角入射X線回折法(2D-GIXD)と多角入射分解分光法(MAIRS)により定量的に実証した。さらに,中心金属をCo2+にすると分子は結晶性を維持したまま配向性を失い,Ni2+やCu2+にすると結晶多形を変えつつface-on配向になることもわかった。
これら一連の結晶多形と配向の変化は,金属の電子構造による考察で十分に説明がつくこともわかり,今後の薄膜構造制御の在り方に新しい道をつけることに成功したという。
薄膜デバイスの開発では,配位結合を分子配向制御に用いた例はなかった。今回の成果により,薄膜構造制御における配位結合の有用性を示し,新たな選択肢を開拓することができた。また,これにより,近年薄膜化の研究が進んでいる有機金属構造体(MOF)の構造制御への波及も期待される。具体的には,MOF中の孔の並び方の制御にも活用できる可能性があると,研究グループではみている。