物質・材料研究機構(NIMS)は,自己組織化的に銅・ニッケルコアシェル構造を形成することで,耐酸化性を大幅に向上させたプリンテッドエレクトロニクス向けの新たなインクを開発した(ニュースリリース)。
金属や半導体のインクを用いて印刷プロセスによって電子回路を形成する「プリンテッドエレクトロニクス」は,既存の半導体製造技術と比較して簡便であり,フレキシブル基板と親和性が高いことから,ウェアラブルデバイスやセンサとしての応用に向けて広く研究開発が行なわれている。
一方で,現在の主流である銀ナノ粒子インクは,コスト高であること,はんだ耐性が低いこと,マイグレーション(エレクトロニクスにおけるマイグレーションは,金属配線を回路の中で用いた際に,電界などの原因によって金属が移動し,断線などが生じること)を起こしやすいといった問題があり,安価な銅をベースとした金属インクの開発が望まれていた。
しかし,銅ナノ粒子は酸化に極めて弱いため,生産や印刷プロセスに特別な設備や工夫が必要であり,最終的なコストはあまり下がらないことが分かってきた。そこで新たなインクの開発が望まれていた。
今回,研究グループは,大気下で安定な,有機アミンが金属イオンに結合した錯体を使ったインクに着目し,異なる金属の錯体を混合することで,インクの組成や条件により多層コアシェル構造から合金までを印刷可能であることを発見した。
この原理を用いて,銅およびニッケル錯体を混合したインクを印刷することで,自己組織化的に銅・ニッケルコアシェル構造を形成した。酸化に強いニッケルが銅表面を覆うことによって,耐酸化性を従来の銅インクより大幅に改善し,なおかつ安価なインクを開発した。このインクの銅・ニッケル印刷配線の抵抗率は,最高で19μΩcmという,従来の金属インクとそん色ない値を示した。
このインクにさらに微粒銅紛を添加することで,膜厚を大きくした印刷が可能になるという。現在,研究グループは,このインクに添加する微粒銅紛を開発する住友金属鉱山およびNIMSベンチャー企業プリウェイズと共同で開発を進めており,両社より,近日中にサンプル提供を開始する予定としている。