高輝度光科学研究センター(JASRI)と東京大学は,磁区構造に含まれるミクロな磁石の多くは隣り合った磁石と同じ強さで同じ方向を向いている,という性質をスパースモデリングによって取り入れた位相回復アルゴリズムを開発し,この手法がノイズや欠損を含むデータの解析に有効であることを明らかにした(ニュースリリース)。
磁区構造ではスピン磁気モーメントがそろった微小領域(ドメイン)が複数あり,様々な方向を向いている。
それらは複雑な模様(磁区パターン)を示し,ハードディスクなどに用いられている強磁性材料全般で発現する。このような磁区パターンと磁性材料の性能の関係について近年議論されており,磁場などをかけた場合の磁区パターン変化の過程(ダイナミクス)を可視化することが,磁性材料性能向上のカギを握っている可能性がある。
コヒーレントX線回折イメージング(CDI)はX線のシングルショットでナノメートルスケールの磁気構造を磁性元素ごとに可視化できるため,磁区のダイナミクス観測に適している。ただし,CDIによって観測されたデータから磁区パターンの像を得るには位相回復法アルゴリズムなどによって位相情報を回復させる必要がある。シングルショット計測によるデータはノイズの影響が顕著で情報欠損も含まれるため,ノイズと欠損に耐性のある位相回復アルゴリズムが望まれていた。
研究グループは,磁区パターン像の大部分の領域は変化が小さく,隣り合うドメイン同士の境目でのみ急激に変化するという性質に着目し,スパースモデリングを取り入れた位相回復アルゴリズムを開発した。
この手法を用いて,X線自由電子レーザーを入射光源としたシングルショット計測のシミュレーションを行ない,ノイズと欠損の影響が大きいデータからでも迷路状の磁区パターンを再構成できることを示した。さらに,磁区パターンが迷路状から別の模様に変化しても本手法により対応可能ということを明らかにした。
今回開発した位相回復アルゴリズムを用いることにより,従来法では困難であったノイズや欠損を含むデータから磁区パターンの像を得ることが可能となるという。研究グループは,実際のシングルショット計測に適用することで,磁気構造のダイナミクス研究を進展させるとしている。