九大ら,神経細胞から超省エネIoT制御技術を確立

九州大学の研究グループは,余分な機能を省きタイミング制御だけに特化することで,世界最小の消費電力(1.2pW)で動作するニューロン回路を実現し,IoTデバイスの標準機能である直流電圧変換を1nW程度の超低消費電力で実現できることを実証した(ニュースリリース)。

モノのインターネット(IoT)では使用できる電力は厳しく制限される。

末端デバイスほど人がアクセスしにくい場所に設置されて数も多くなるため,電池交換は現実的ではない。そこでデバイスの設置置場所の光・熱・振動から自力で発電する環境発電が有望視されているが,得られる電力にはムラがあり,さらにデバイスが小型化するほど発電電力は小さくなる。

従って将来的には1µW未満の電力で超省エネに電子制御する技術が求められる。従来の電子制御では「クロック」と呼ばれる一定周波数の信号を用いて回路全体の動作タイミングを制御しており,この方法では必要な時に必要な場所だけ回路を動作させることはできず,消費電力に無駄があった。

これに対して生物の神経回路では,個々の神経細胞(ニューロン)がスパイク信号によって局所的にタイミング信号を生成することで,必要な時に必要な場所だけ動作している。これによって優れた低消費電力性を実現し,生物の限られたリソースの中でも高度な制御を実現している。研究ではこの神経回路の方法を参考に,ニューロン回路を用いて超省エネに電子制御する技術を確立した。

過去にもニューロンの動作を模倣した回路は世界中で設計されてきたが,ここではタイミング制御に特化して余分な機能を徹底排除することによって,1.2pWという世界最小の消費電力で動作するニューロン回路を実現した。

このニューロン回路は所定のタイミングでスパイク信号を出力する。このスパイク信号をメモリ回路と合わせて使用することで,任意のタイミング情報を持つパルスまたはスパイク形状のデジタルパターンを生成することができる。

これを従来のデジタル回路で使われていたクロックの代わりに用いることで,必要な時に必要な場所だけ回路を動作させる、超省エネな電子制御の枠組みを構築した。さらにこのニューロン回路の応用例として,IoTデバイスの標準機能である直流電圧変換を1nW程度の超低消費電力で実現できることを実証した。これは従来の電圧変換回路に比べておよそ2桁低く,電力制限が厳しいIoTデバイスに最適な制御方法だという。

研究グループは,この技術を従来のアナログ・デジタル技術と適材適所に利用することで,限られた電力制限下でも高度な制御・機能が実現できるようになるとしている。

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