産総研ら,非接触検温の基準となる黒体装置を開発

産業技術総合研究所(産総研)とチノーは,非接触検温などで用いられるサーモグラフィーの測定温度の精確(精密かつ正確)な基準となる平面黒体装置を開発した(ニュースリリース)。

物体の赤外線放射量から温度分布を可視化するサーモグラフィーを含む非接触検温技術は外的要因に影響を受けやすく,測定値の誤差を現場で補正するため,温度基準として平面黒体装置の使用が推奨されている。

プランクの黒体放射の法則に基づき,温度と赤外線放射量の換算を周囲の影響を受けずに十分に小さな不確かさで実現するため,平面黒体装置の黒体材料には1に限りなく近い高い赤外線放射率が求められる。しかし,従来の黒体材料は高放射率と耐久性の両立に課題があり,放射率の不十分な平面黒体装置しかなかった。

放射率が1の理想的な黒体は,プランクの黒体放射の法則により赤外線放射量が黒体の温度だけで完全に決まるので,最も精確な放射温度の基準となる。放射率が1より小さいということは,赤外線の反射があることに相当するので,周囲との温度差や発熱体の存在により,背景赤外線の反射が上乗せされる。

つまり,赤外線放射量が黒体面の温度だけで決まらないので,精確さが落ちる。従来型の平面黒体装置の放射率は0.96~0.98程度であり,使用環境によっては本質的に0.5℃以上の不確かさが生じる可能性があった。

今回,理想的な黒体に極めて近い材料を製膜する方法を考案した。この黒体材料は,ミクロな凹凸が多数並んだ表面構造(逆マイクロレンズアレイ構造)を有した黒色樹脂からなり,入射した赤外線の反射を低減し,高い赤外線吸収率を実現した。吸収率は放射率と等しいので,高い放射率が実現したことになる。

この逆マイクロレンズアレイ構造の黒体材料は,一般的なサーモグラフィーが検知する赤外線波長7μm~14μmにわたって,平均0.997,最大0.999超の放射率を有しており,反射率が低いことから背景赤外線がほとんど上乗せされず誤差とならない。このため,放射率に起因する温度測定の不確かさを体温付近で0.1℃未満に抑えることができた。

この黒体材料は,マイクロレンズアレイの型を転写することで繰り返し作製できるうえ,従来実現できなかった高い放射率と耐久性の両立を達成している。また,黒体材料の基板温度を均一に安定化することにも成功。開発した平面黒体装置の試作機では,総合的な表面の放射温度の不確かさ0.2℃未満の校正を体温付近で達成できる見込みを得たという。

研究グループは今後,体表温度の精確な計測を通じて,非接触検温の信頼性の向上を目指すとしている。

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