京大,電磁波が「止まった波」となる現象を観測

京都大学の研究グループは,ErFeO3の実験データから理論モデルを構築し,約4ケルビン(マイナス269度)で起こる相転移が,磁気的な波が止まった形で自然と現れる超放射相転移であることを見いだした(ニュースリリース)。

温度が下がっていくと電磁波が「止まった波」として自然と現れる,超放射相転移と呼ばれる現象が1973年に予言された。

典型的な電磁波(光)の研究では,時間的に振動する電磁波と電磁気分極のダイナミクスを主に扱うのに対し,超放射相転移では熱平衡下において静的な波(止まった波)が生じる。これまで,レーザー光で駆動される冷原子系で超放射相転移が時間的に振動する形で観測されたことはあったが,時間的に振動しない熱平衡下での超放射相転移は観測された例がなかった。

研究では,ErFeO3にて約4ケルビンの臨界温度Tcで生じる相転移(低温相転移と呼ばれる)が,マグノン版の超放射相転移であることを理論的に示した。すなわち,超放射相転移が予言された当初に想定された電磁場の代わりに,Fe3+イオンのマグノン場(スピン波)とEr3+イオンのスピンが協同的に結合することで,低温相転移が起こることを明らかにした。

具体的には,磁化測定で得られた相図やテラヘルツ磁気分光で得られた吸収スペクトルを再現するErFeO3の理論モデルをまず構築した。このモデルを用いて,Er3+間の直接的な相互作用が存在しない場合でも,Er3+-マグノン結合によって低温相転移が起こることを発見した。さらに,Er3+-マグノン結合によって,Er3+間の直接的な相互作用のみがある場合よりも,低温相転移の臨界温度Tcや臨界磁場が高まることを確認した。

これらの結果は,部分的にはEr3+同士の相互作用も寄与しているものの,Fe3+マグノンとEr3+スピンとの結合がErFeO3の低温相転移を引き起こしていることを示唆しており,ErFeO3が熱平衡下で超放射相転移を実現できる物理システムであることが明らかになった。これは,熱平衡下において超放射相転移が確認された初めての例だという。

超放射相転移臨界点における「完全スクイージング」と呼ばれる状態はノイズに強いことから,量子センシングやノイズに強い連続量変数量子コンピューティングなどへの応用が期待される。同時に研究グループは,光学,熱力学,そして物質科学を繋ぐ重要な現象である超放射転移を理解し,活用していくための学術的な基盤となるとしている。

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