北海道大学,東北大学,茨城大学は,Na24Si136の化学式で表される巨大単結晶から,Naのみを均質に抜き出す新たな合成プロセスを開発した(ニュースリリース)。
Na24Si136から完全にNaを抜き出すことができれば,Siで形成される籠状の構造のみが残り,現在半導体産業に広く普及しているダイヤモンド構造のSi(d-Si)の同素体と見なすことができる。
d-Siは太陽光発電の基板材料としても用いられているが,この籠状構造のSi同素体は,より多くの太陽光を吸収するため,さらに高い特性の実現が期待される。また,Siの籠状構造は,イオン電池の電極材料等,様々な応用開発が期待される。
このような応用開発を進めるためには,単結晶Na24Si136の巨大化する技術と,巨大単結晶からNaを抜き出す技術の両者の確立が必要不可欠。Naを抜き出す技術については,従来真空下での熱処理が用いられてきたが,この手法では,単結晶が大きくなると内部にNaが残ってしまうことが明らかになった。
そこで研究では,異方的にNaイオンの拡散を誘発する環境を作り出し,巨大な単結晶から均質にNaイオンを抜き出すための新規プロセスを確立することを目指した。
Na24Si136をNaイオン伝導体(NASICON)に接触させて,高電圧を印加すると,NASICON内部ではNaに偏りが生じ,Na24Si136との接触界面でNa欠乏層が形成される。さらに,450℃程度でこのデバイスを加熱すると,Siのケージを壊さずに,Naのみがケージ間を移動することができる。
この状態を保持することで自発的にNaがSiのケージから排出され,欠乏層へと拡散する。このNaの移動は時間の経過とともに次々と進行するため,Na24Si136の単結晶サイズに関わらず,Naを均質に抜き出すことができる。
この手法により,極めて清浄な表面を保持しつつ,均質にNaが抜けることが確認された。一方,真空熱処理を用いた場合は,クラックが形成され,表面にNa2CO3が主成分となる白色の不純物が付着してしまう。また,単結晶内部にNaが残っていることも確認された。
新手法は欠乏層を介して放出されたNaが次々に NASICONの下層に移動するため,表面でこのような不純物を形成しない。また,厚さ方向に単結晶を削り出し,Naの濃度分布を調べたところ,全領域にわたってNaが均質に抜けていることが確認された。
近年mmオーダーの単結晶Na24Si136が合成されており,研究グループは研究を推進することで,Si同素体のユニークな特性を利用したデバイスが実現するとしている。