京都工芸繊維大学,神戸大学,産業技術総合研究所は,周波数が異なる複数の超音波が,それぞれ伝搬する様子を同時に動画として可視化することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
存在自体が音場を乱し,計測を阻害する音の発生源にもなるマイクロホンと違い,場を乱さずに音場を可視化できる光を用いた音場計測技術に注目が集まっているが,これらの技術は音の伝搬の様子しか観察できなかった。
音場中では,音が伝わる媒質の密度が変化する。光波は,明るさを表す強度と伝搬する方向を表す位相の2つの情報を持っており,光波が音場を通過するとき,媒質の密度に応じて光波の位相に変化が生じる。
通常の写真では光の明るさのみを記録するため,この位相変化を記録するためにはこの光を基準となる光と干渉させて記録する必要がある。ディジタルホログラフィは光波の干渉によって生じる明暗の縞である干渉縞を記録し,物体の像を再生する技術であり,光波の位相の変化を記録できる。
しかし,音場によって生じる光波の位相変化は高速で,通常のカメラでは記録できない。そのため,ディジタルホログラフィと高速度カメラを組み合わせることで,高速に変化する音場の様子を動画像として記録・観察した。
まず,研究グループの発明である並列位相シフトディジタルホログラフィと呼ばれる,光の位相を動画像記録できる技術を用いてスピーカから発される時間的空間的に変化する音場を撮影し,位相像を再生した。
周波数が異なる超音波の伝搬の様子を同時に可視化するアルゴリズムは,位相像を再生後,音場の像をより鮮明に映し出すため,時間順に並んだ位相動画の中での1コマ前の画像との間で減算して位相差分を表す動画を計算で求める。
また,位相画像に短時間フーリエ変換を適用して,位相変化の周波数を計算で求め,色の表現方法の一つであるHSL色空間を用いて,超音波を周波数ごとに色付けした。音が伝搬する様子と周波数の空間分布を可視化することは,建築物の構造設計や自動車の騒音解析など様々な産業において重要となる。
実験では,2つのスピーカからそれぞれ異なる周波数で発される超音波の様子をホログラムとして撮影し,その後,開発したアルゴリズムによって,伝搬の様子と周波数の空間分布を同時に記録したカラー動画像を取得した。今回の実験では並列位相シフトディジタルホログラフィを用いて音を撮影したが,この技術は他の技術で得られる音場の動画像にも適用できるという。
研究グループは今後,可視化する音の対象を可聴域やさらに低い周波数領域に拡張することを想定。これにより実用的なツールとなることが期待できるとしている。