奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の研究グループは,高分子太陽電池の作製時に用いる溶媒添加剤の働きをナノメートルのスケールで可視化することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
現在広く普及しているシリコン結晶太陽電池は,重量的な制約から使えない場所がある。
そのため,軽量かつ高効率な太陽電池の必要性が今後増してくると考えられている。p型(プラス電荷を運ぶ)とn型(マイナス電荷を運ぶ)の半導体材料として共役高分子を用いる「高分子太陽電池」はその有力候補の一つ。
また,高分子材料が持つ特長を活かして、室温で高速・大量生産が可能であるなど,低炭素社会の実現に資する次世代エネルギー変換技術の一つとしても注目されている。一方で,その発電性能は有機系太陽電池の中で最も低く,社会実装に向けた応用研究へのステージ移行には高性能化が課題となっている。
高分子太陽電池の性能向上は新材料の開発に頼るところが多く,これまで,製膜プロセスの部分には明確な指針がなかった。試行錯誤的に用いられてきた溶媒添加剤の働きを解明することで、,膜プロセスの点から高性能化の指導原理を提示することを目的としている。
高分子太陽電池は共役高分子を溶かした溶液を電極上に塗って製膜することで簡単に作製できる。太陽電池内部では,正孔(プラス電荷)と電子(マイナス電荷)の輸送を担う二種類の共役高分子がナノメートルスケールでの相分離構造を形成しており,光を吸収して,電荷を生成し,輸送するという光電変換の機能を果たしている。
膜内の相分離構造は製膜に用いる溶媒の種類に大きく依存することから,最適な溶媒の選択が高性能化の鍵となる。これまで,溶媒添加剤と呼ばれる高沸点溶媒を製膜溶液にごく少量加えることで発電性能が向上することが経験的に知られていた。しかし,非常に小さく複雑な相分離構造が有する光電変換特性を直接評価することは難しく,その仕組みは詳細に理解されていなかった。
そこで研究グループは,ナノ空間領域での電流-電圧特性を計測できる走査型プローブ顕微鏡(PC-AFM)を駆使してこの問題を解決した。太陽電池を作製し電池内を流れる光電流をナノスケールで可視化した結果,添加剤を加えることで共役高分子の構造秩序化が進み,生成した電荷を外部電極に効率よく輸送するネットワークが形成することを突き止めた。
共役高分子の種類によっては溶媒添加剤の効果が限定的であることも知られている。しかし,PC-AFMによる計測・評価は共役高分子の種類に関係なく可能。研究グループは,今回検討していない種類の溶媒添加剤も含めて研究対象を広げ,高分子太陽電池における溶媒添加剤の働きの全容を明らかにしていくとしている。