東北大学の研究グループは,有害元素を含まない実用的な硫化スズ薄膜太陽電池の作製に不可欠な,n型伝導性の硫化スズ薄膜の作製に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
硫化スズは,毒性のある元素を含まず,地球上に豊富に存在する元素のみから構成されることから,次世代ソーラーパネルへの応用が期待されている。
高効率な発電のためには,p型伝導性とn型伝導性をもつ硫化スズを作り分け,それらを組み合わせたpnホモ接合が必要となる。しかし,通常の方法で作製された硫化スズ薄膜はp型伝導性を持ち,n型化された例は,有害元素を含む硫化鉛との混晶半導体を除くとこれまでなかった。
したがって,過去20年にわたって,p型層に硫化スズ薄膜を,n型層に硫化カドミウム等の他の半導体の薄膜を用いたpnヘテロ接合太陽電池が研究されてきたが,変換効率は5%程度で停滞しており,実用レベルには及んでいない。実用的な薄膜太陽電池に応用可能なn型伝導性の硫化スズ薄膜が存在しないことが,pnホモ接合の形成による高効率化への道を閉ざしていた。
硫化スズは,塩素ドープをすることでn型伝導性を示すことが焼結体や単結晶にて報告されている。しかし,薄膜太陽電池に必要な硫化スズ薄膜については,n型化に成功した例がこれまでなかった。
硫化スズの構成元素である硫黄は,もう一つの構成元素であるスズよりも蒸発しやすい。研究グループは,これまでの硫化スズ薄膜の作製方法では,薄膜を作製する際に一部の硫黄が薄膜中にとりこまれずに蒸発してしまい,欠損した硫黄に起因した格子欠陥が塩素ドープした硫化スズ薄膜のn型化を阻害しているという仮説を立てた。
そこで,塩素ドープした硫化スズ薄膜を作製する際にプラズマ化した硫黄を供給することで,硫黄の欠損を低減する新たなプロセスを開発した。これにより,不純物ドープによって硫化スズ薄膜をn型化することに世界で初めて成功した。
得られたn型硫化スズ薄膜は,約2×1018cm-3の高いキャリア密度を有しており,10-1Scm-1台の高い電気伝導度を示す。ドープする塩素の濃度を変えることで,電気伝導度を制御でき,太陽電池に適した物性の薄膜を作製することができる。
研究グループは,このプロセスによって得られたn型硫化スズ薄膜を用いたホモ接合太陽電池の作製を進めている。SDGsの達成期限である2030年までの実用化を目指して,その高効率化に取り組むとしている。