産業技術総合研究所(産総研)は,窒化ガリウム(GaN)を用いた高電子移動度トランジスタと炭化ケイ素(SiC)を用いたPNダイオードの両者をモノリシックに一体化した,ハイブリッド型トランジスタの作製と動作実証に初めて成功した(ニュースリリース)。
パワートランジスタは,①高効率な電力変換を実現するための,スイッチオン状態における導通損失を減らす低いオン抵抗,②スイッチング損失を減らすための,オンとオフの高速な切り替え性能,③電力変換回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収源としての役割,が求められる。
従来の高電子移動度トランジスタは,ソース電極とドレイン電極の間にPN接合が存在しないため,ボディダイオードがない。このためGaNトランジスタは①と②は優れるが,③が小さいという固有の弱点があった。
従来のSiトランジスタは,MOS型電界効果トランジスタであり,PNダイオード(ボディダイオード)によってノイズエネルギーは熱エネルギーとして吸収されるが,GaNトランジスタはボディダイオードが存在しないため,ノイズの逃げ場がなく,わずかなノイズで素子が破壊される。
そこで研究グループは,GaNトランジスタとSiCダイオードを同一の基板上に一体形成(モノリシック化)したハイブリッド型トランジスタを開発した。
コンセプト実証として,小型デバイス(定格電流20mA程度)の試作と動作確認に成功した。まず,SiC基板上にp型SiCエピタキシャル膜を結晶成長させ,次に,イオン注入により,p+型SiCとn型SiCによるダイオード構造を形成した。さらに,それら上部に,GaNエピタキシャル膜とAlGaNバリア膜,GaNキャップ膜の3膜をエピタキシャルに成長させ,GaNトランジスタ構造を作製した。
このようにSiCダイオードとGaNトランジスタのモノリシック化し,3端子のハイブリッド型トランジスタとし,降伏特性を評価したところ,GaNトランジスタでは降伏時に即座に素子が破壊されるが,作製したハイブリッド型トランジスタでは非破壊のアバランシェ降伏が得られ,降伏電圧は1.2kV程度であった。また,複数回の掃引に対して安定した可逆的降伏動作も確認した。
オン状態における通電特性では,移動度の高い2次元電子ガスを通して電流が流れるため,300mA/mmの高いドレイン電流および47Ωmmと低いオン抵抗を確認し,低いオン抵抗に加えて,非破壊の降伏動作をするハイブリッド型トランジスタを実証した。
また,SiCは熱伝導率がSiの3倍と高いことから,研究グループは,次世代電力変換器の高効率化および信頼性向上につながるとする。