東大ら,物質優勢宇宙を重力波で解明可能と指摘

東京大学,米カリフォルニア大学ロサンゼルス校らは,我々の宇宙が物質優勢の宇宙になるにあたって影響を与えたとされる「Qボール」が崩壊時に重力波を生じ,その重力波は欧州や日本で将来計画として検討されている重力波望遠鏡によって検出できる可能性があることを指摘した(ニュースリリース)。

ビッグバン理論によると,宇宙の初期において物質と反物質は同じ量作られたと考えられているが,宇宙の最初の1秒間のある時点で,物質が何らかの理由で反物質よりも多く生成されたため,この宇宙は物質優勢の宇宙になり,我々も存在することができている。

しかし,物質と反物質の量の非対称性は非常に小さく,100億個の反物質の粒子に対して物質が一つ余分に生成された程度であり,この小さい非対称性は,現在の標準的な物理理論では説明できず,どのようにして物質と反物質の量に違いが生まれ,物質優勢の宇宙になったのかは謎となっている。

現在,物質と反物質の非対称性は,宇宙初期の非常に急速な加速膨張であるインフレーションの直後に生じたという考え方がある。これは,この時に生まれた場の塊が宇宙の膨張とともに引き伸ばされ,ちょうど良い非対称性を生み出すように進化し,分裂していったというもの。

これは超対称性理論に基づくアフレック・ダイン機構と呼ばれる考え方の一つ。しかし,このようなことが起きた状態のエネルギースケールは人間が地球上で作り出せるエネルギーの数十億から数兆倍高いものであり,粒子加速器を用いて検証することは難しかった。

そこで研究グループは,アフレック・ダイン機構で生じる「Qボール」として知られる場の塊を手がかりとして,この理論的提唱を観測的に検証する新しい手法を示した。

もし,ヒッグス場に非常によく似た場があって,それが何らかの保存する電荷(通常の電荷とは異なる)を持っているとすると,一つの塊は一つの粒子のように電荷を持つ。電荷は消えないので,場は粒子か塊になる。もし,粒子になるよりも塊になった方がエネルギーが低くすむのであれば,場は塊となる。そして,塊の集まりが凝縮するとQボールになる。

Qボールは,宇宙が膨張するにつれて熱的背景放射(プラズマ)よりもゆっくりと薄まっていき,最終的には宇宙のエネルギーのほとんどを担うようになる。そしてその間,プラズマ密度のわずかなゆらぎは,Qボールが支配的になると大きくなり始める。そしてQボールが崩壊すると,その崩壊は非常に急激で速く起こるために,プラズマのゆらぎは激しい音波となり,重力波を引き起こすと考えられるという。

研究グループはこの重力波は,将来計画として検討されている重力波望遠鏡によって検出できるとしている。

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