基生研ら,光遺伝子組換酵素の高活性化条件を発見

基礎生物学研究所と東京大学は,光によって活性化され,配列特異的に遺伝子を操作できる組み換え酵素「光活性化型Cre(Photoactivatable-Cre; PA-Cre)」を,効率よく活性化する条件を発見した(ニュースリリース)。

組み換え酵素であるCre recombinaseは,loxPと呼ばれる短い配列間で組み換えを起こすことができる。細胞・組織・時期特異的に遺伝子を発現させる,遺伝子配列を除去するなどの操作にCreによる組換えが用いられてきた。

Creの活性制御の手法として,光によって活性化するPA-Creが近年報告されている。研究グループは,光を当てた時だけCreが活性化されるこのPA-Creをマウス個体,特に着床前の胚で実用化することを目指した。

PA-Creを発現するトランスジェニックマウスを作出し,光を当てた時に組み換えを起こす複数系統のマウスを得た。しかし,PA-Creの組み換えを誘導する際に,強い光を当て続けると,細胞にダメージを与えてしまう。そのため,ダメージを抑えながら効率よく組み換えを誘導できるような光照射条件を探索した。

手軽に様々な条件を検討するために,PA-Creマウスと,Creによる組み換えが起こった時のみ細胞膜に蛍光タンパク質が局在するマウス(R26-Lyn-Venus(flox/flox)マウス)の掛け合わせにより得られた胚から,ES細胞を樹立した。

このES細胞を用いて,いろいろな光照射条件を試した結果,「1分以内の短い間隔で光のON/OFFを繰り返す」ことによって,合計の光照射時間を半分に抑えながら,連続照射と同じくらいの効率で組み換えを誘導できることがわかった。

また,PA-Creの活性化状態と非活性化状態からなる数理モデルを用いて,この現象が説明できることがわかった。さらに同じモデルから,この現象には「光を当てたときに素早くくっついて活性化する」一方で「光を消してもすぐには離れず,不活性になりにくい」という今回用いたPA-Creの性質が重要であることがわかった。最後に,この短いON/OFFの光照射は,細胞だけではなくマウスの胚においてもPA-Creによる組み換えを誘導できることが示されたという。

マウスの着床前胚の特定の細胞集団で遺伝子を改変し,その後胚移植を行なうことで,細胞系譜の解析や,遺伝子のはたらきを調べる実験などに応用が可能となる。また細胞へのダメージを抑えて活性化を促す条件は,ほかの光活性化型タンパク質への応用も期待されるとしている。

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