東北大学と東京大学は,透明でフレキシブルな半導体原子シートである遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の,結晶成長初期の核形成過程を詳細に直接観測する手法を開発した(ニュースリリース)。
モリブデン(Mo)やタングステン(W)等の遷移金属と硫黄(S)等のカルコゲン原子から構成される遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)と呼ばれる原子シートは,グラフェンにはない半導体特性を示し,注目を集めている。
TMDに関する合成技術には多くの問題があるが,TMDの結晶核形成過程を定量的に計測する手法が確立なく,その形成機構は解明されていなかった。そこで研究グループは今回,その場観測CVD法を用いてTMDの一種であるWS2の結晶成長が中間クラスターを経由する新たな核形成モデルによることを初めて明らかにした。
まず気相から供給された成長前駆体が微小液体(液滴)状態に変化し基板上を動き回り,次に複数の液滴が融合したクラスター(前駆体の中間状態)を形成した後,クラスター内部で液体―固体相転移が発生することで単層WS2が成長する様子を直接観測することに成功した。
一般的な古典的核形成モデルは,前駆体からの核形成が中間状態を経ず一段階で進行するのに対し,このような中間クラスターを経由する現象は,非古典的核形成モデルの二段階核形成として知られている。このような非古典的な核形成は,近年,新たな核形成モデルとして注目を集めている。今回,TMDの核形成がこの非古典的核形成モデルによることを初めて実証した。
さらに,成長基板のみの温度を独立に制御可能な機構により,TMD核形成までにかかる時間(インキュベーション時間)が基板温度(≈液体前駆体温度)に依存して非線形に振る舞うとを明らかにし,この現象が液体前駆体の熱活性に伴う拡散能力と,液相と固相の温度差に由来する結晶成長駆動力のバランスで決定することを熱力学的に解明した。
通常,結晶成長は定量的な議論が難しいとされるが,今回,合成パラメータを定量的に議論が可能な定量的フェーズフィールドシミュレーションで再現することに成功。この中には,実験では計測困難な結晶成長に関連する様々な物理パラメータが多数含まれており,実験結果を再現できた今回の計算結果のフィードバックにより,詳細な結晶成長物理パラメータの制御が期待できる。
TMDはその薄さと柔軟さに加え高い透明性を持つことからフレキシブルかつ透明な電子デバイス(トランジスタ,発光素子,センサー,太陽電池など)への応用が期待されている。この成果により,これら次世代超高性能フレキシブル透明デバイスの実現が期待できるとしている。