工繊大ら,散乱媒質中を伝播する光をスローで記録

京都工芸繊維大学,千葉大学,神戸大学は,光が散乱媒質中の奥深くを伝播する様子の,超高速な光の振る舞いのスローモーション動画記録に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

超短パルスレーザーは,最先端の情報通信,微細加工,医療など幅広い分野で利用されている。

そのような最先端技術のさらなる発展に向け,極めて短い時間で発生する物理現象や光化学反応のメカニズム解明を助ける超高速イメージング技術が求められている。中でも超短パルスレーザーが出射する光パルスの伝播を画像,特に動画像によりスローモーション観察することは,様々なレーザー利用技術の基盤となる。

研究グループは,3次元画像技術であるホログラフィーと超短パルスレーザーを組み合わせた,光の伝播のスローモーション動画を記録する技術に関する研究を行なってきた。今回,散乱媒質中を伝播する超短光パルスが伝播する様子をデジタル動画として記録するとともに,スローモーション観察を実現する技術の開発に成功した。

これまで,拡散板や平板構造の光学部品中を伝わる超短光パルスを高解像写真記録材料に記録した例は報告されていた。しかし,光の散乱が弱い媒質や,光が媒質の奥深くを伝播する様子を観察することは困難だった。

提案した技術は,電子撮像素子(イメージセンサー)を用いて記録するため,光の散乱が弱い媒質や,光が媒質の奥深くを伝播する様子を記録・観察できる。実証実験として,生体組織や高分子材料といった散乱媒質中を伝播する光を記録することに先駆け,生体組織などに見立てたゼラチンの奥深くを,様々な状況で伝播する光を記録・観察した。

今後の課題として,記録する動画像の高精度化が挙げられるという。これは,記録に用いる電子撮像素子が従来の記録に用いられてきた高解像写真記録材料に比べて1桁程低いことが要因。

一方,今回開発した技術では,記録した動画像はデジタルデータとして保存できるので,最先端の画像処理技術を利用できるようになり,従来の技術ではノイズなどの影響で観察できなかった光の振る舞いや現象が観察できるようになると期待されるという。

研究グループは今後,散乱媒質や揺らぎ媒質を通過する情報へ応用し,細胞中を伝搬する光の様子の動画像観察にも挑戦する。さらに,レーザー光を利用したがん治療の発展につながるメカニズムの理解や,光学顕微鏡の新たな特性評価技術として展開することにより,通常の光学顕微鏡では困難である超生体深部イメージング技術の開発といった貢献が期待されるとしている。

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