大阪大学の研究グループは,同研究所の激光XII号レーザーを活用した「レーザー宇宙物理学実験」を実施し,宇宙空間で起こっている磁場増幅現象の実験的検証に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
星の一生の最後に起こる超新星爆発から発せられた衝撃波が,星間空間を伝播する際に,周囲よりも100倍以上も強い磁場が局所的に発生していることが観測的に知られている。
星間ガス密度が空間的に分布をもった中を衝撃波が伝播することで生じる乱れ(界面流体不安定の一種でリヒトマイヤー・メシュコフ不安定と呼ばれる)によって強い磁場が生成されることが,理論シミュレーションから示唆されていたが,実験的な検証はされていなかった。
一方,大型レーザー装置でしか作り出せないような高温度・高密度の極限プラズマ状態で,宇宙空間で起こっている天体現象を模擬する「レーザー宇宙物理学」が盛んに行なわれるようになってきた。非常に小さな領域(1mm以下)・非常に短い時間(10億分の1秒程度)だが,調べたい天体と同等または類似した現象を地上の実験室で再現できる。
研究では,大阪大学レーザー科学研究所の激光XII号レーザーを用いて,星間空間を伝わる衝撃波と同等の状態を,1mm以下のスケールに縮小して再現し,リヒトマイヤー・メシュコ
フ不安定によって磁場が実際に増幅される様子を,世界で初めて実験的に確認することに成功した。
実験では,片面を波板状に整形したプラスチック薄膜を星間空間に存在する密度擾乱に見立て,そこにレーザーを照射することで超新星爆発衝撃波に相当する強い衝撃波を発生させる。衝撃波通過前から元々存在している弱い磁場を再現するために,薄膜の近くにはネオジム磁石を設置しておく。
波板状凹凸面と窒素ガスとの密度境界面を衝撃波が通過することで,界面の構造が不安定化し,擾乱の振幅が時間に比例して増大していく。この界面成長の様子は,背景光の影として撮像し,数10nsというスケールでの時間発展を確認した。
さらに,磁場の時間変動を捉える磁気プローブを用いて,擾乱成長に伴い増幅された磁場の兆候を捉えることにも成功した。
実際の超新星爆発と比べると,およそ19桁も小さいスケールでの実験結果だが,物理現象の相似性を正しく考慮することで,星間空間での衝撃波による磁場増幅過程が本研究成果によって実験的に検証できたとする。
この成果により,レーザー実験による天文学の大きな可能性の一例を示すことができた。また,磁場中のプラズマ界面不安定の制御は,将来のエネルギー開発にも寄与できると知見だとしている。