日本電信電話(NTT)と東京工業大学は,再帰反射アレーの一種であるバン・アッタ・アレーを用いた双方向通信を世界で初めて実験的に確認した(ニュースリリース)。
ミリ波・テラヘルツ波といった高周波数帯を用いる無線通信では,信号の伝搬損失が大きいためアレー化した多素子アンテナの各素子を位相制御して鋭い指向性を形成し,通信相手に常にアンテナ指向性の最大方向を向ける必要がある。
このため,通信相手が移動する場合には,アンテナ指向性を追従させるための信号処理・指向性制御機構が必要だった。
一方,再帰反射アレーは,電波の到来方向に対して制御レスでアンテナ指向性を形成し,電波を入射方向に反射できる特徴を有している。このため,再帰反射アレーを無線通信に用いることが出来れば,従来の無線基地局・端末が備えていたビーム選択機能(あるいは電波の到来方向推定機能)やアンテナ指向性制御機能を不要にできる可能性を秘めている。
再帰反射アレーには様々な種類があるが,バン・アッタ・アレーはその中でも最も小型で構成が簡易という特徴を有している。しかし,バン・アッタ・アレーは,RFIDへの応用や電力伝送用途での活用は研究・報告されていたものの,通常無線装置で行なわれる双方向通信への適用については未検討だった。
そこで,研究グループは広範な無線装置への応用をめざして,バン・アッタ・アレーを用いた双方向通信の原理確認を行なった。図のようにバン・アッタ・アレーを用いて通信する場合,無線機Aではバン・アッタ・アレーに向けて送信される電波(A→B)に情報を載せることで無線機Bに情報を届ける一方,無線機Bでは再帰反射の過程で情報を重畳することで無線機Aへの情報伝送(B→A)が可能となる。
無線機Bからの信号を受けた無線機Aでは,結果的に自身が送信した信号に無線機Bで加えた信号(情報)を重畳したものが受信されるため,無線機Aは受信信号から自身が送信した情報(電波(A→B))を除去することで無線機B→無線機Aに送りたかった情報を取り出すことができる。
今回,3×4素子のモノポールアンテナを用いてバン・アッタ・アレーを試作し,無線機Aにおいて実験的に無線機Bからの情報が復元できることを実験的に確認した。
この成果により,従来必須であったアンテナ指向性制御のための信号処理や制御機構を不要にできれば,無線装置の簡易化・低消費電力化につながると期待される。研究グループは今後,広範な無線装置への応用に向けて,装置化等の実用化研究を進めるとしている。