大阪大学の研究グループは,同大の激光XIIレーザーで生成した高温なプラズマに強磁場を加えるとプラズマが変形するという,新しい機構を世界で初めて実験で観測し,理論・シミュレーションを駆使することで,この現象の詳細を明らかにした(ニュースリリース)。
核融合でエネルギーを発生させるには,1億度という超高温のプラズマを閉じ込める必要がある。
磁場がプラズマの閉じ込めの作用を持っていることは,以前から知られている。研究グループは,磁場が持つ閉じ込めの作用を,レーザー核融合にも利用しようと試みた。100テスラ程度の強磁場をレーザー核融合プラズマに加えることで,核融合反応数が上昇することがコンピューターシミュレーションで予測されている。
一方,強磁場下ではプラズマの変形が増大し,均一な高密度プラズマコアの形成を阻害することも予測され,その実験による検証が待たれていた。実験による検証に必要な磁場の強度は数百から数千テスラと非常に大きく,実験では実現困難であったために,従来,これらの効果は理論およびシミュレーション上で議論されるのみだった。
研究グループは,国内最大のレーザー装置である激光XII 号レーザーを,キャパシター・コイル・ターゲットと呼ばれる磁場発生装置に当てることで,微小な空間と短い時間内に,千テスラを越える磁場を発生出来ることを発表している。今回,この強磁場発生法を用い,実験室内で200テスラの磁場を発生させることで,この強磁場下でのレーザー核融合プラズマの挙動を調べることに成功した。
200テスラの磁場を印加することによって,高温プラズマから周囲への熱エネルギーの損失が抑制されたことによりプラズマの温度が上昇することを明らかにした。プラズマの温度の上昇は,核融合反応率の増加につながる。
その一方で,温度上昇に伴ってプラズマの変形が大きくなるという負の側面も有していることも見つけた。またこの流体力学的不安定性の成長が増大する効果が発現する条件が,主にプラズマの温度とサイズ,そして磁場の強度によって決定されることを明らかにした。
この成果により,磁場と従来のレーザー核融合方式を組み合わせた新しい核融合方式の発展が期待されるという。また,今回発見された現象は,超新星爆発によって広がる衝撃波と星雲の衝突過程と密接に関連していることが指摘されている。
研究グループは,今回開発された実験手法及びシミュレーションを用いることによって,宇宙プラズマの流体力学的挙動やその素過程を調べることにも貢献すると期待している。