東京大学の研究グループは,ポリマー半導体による薄膜トランジスタ(TFT)のスイッチングの鋭さと安定性を決定づける要因を解明し,これをもとに従来にない高急峻なスイッチング動作・高いバイアス耐性・低電圧駆動を同時に示す,実用的な塗布型TFTの構築に成功した(ニュースリリース)。
有機半導体は,電子デバイスの軽量・ウェアラブル化や,デバイス製造における省資源・省エネルギー化を可能にする次世代半導体として期待されている。
有機半導体には,ポリマー系と低分子系の2系統がある。ポリマー半導体は,優れた加工性や堅牢性により,フレキシブルエレクトロニクスを実現するための有望材料として期待さ
れている。
しかし,高性能化が近年大きく進む低分子系半導体と比べて,ポリマー半導体を用いたTFTは急峻で安定したスイッチング動作を得ることが難しく,そのスイッチング動作には10V以上の電圧印加が必要となるなど,低電圧・低消費電力駆動を実現することが課題となっていた。
低分子系半導体を用いた塗布型TFTでは,最近,理論限界に迫る超高急峻なスイッチング動作(SS値が平均で67ミリボルト)を得られることが明らかになっている。
そこでは,高い層状結晶性を示す低分子系半導体と,撥液性の高いフッ素樹脂からなるゲート絶縁層を組み合わせることにより,スイッチング動作が鈍る原因となるトラップの発生を抑え込むことができた。しかし,ポリマー半導体は分子構造がより複雑で乱れが生じやすく,トラップ抑制にはより詳細な検討が必要となっていた。
研究グループは今回,ポリマー半導体TFTにおいて急峻で安定したスイッチング動作を実現するため,高撥液なゲート絶縁層の利用に加えて,ポリマー半導体と電極の種類や膜質,およびこれらを組み合わせたデバイス構造について,徹底した比較検討を行なった。
これによりポリマー半導体層の内外に潜むトラップを特定し,その発生を最小化するデバイス技術を開発した。開発したポリマー半導体TFTのSS値は最小で120ミリボルト(平均で 126ミリボルト)で,低容量のゲート絶縁層を用いたポリマー半導体TFTとしては最も急峻性に優れたスイッチング動作を確認した。
研究グループは,この成果について,プリンテッドエレクトロニクスの革新技術になるものだとし,特にポリマー半導体の界面トラップを自己不動態化する分子機構の解明により,TFTの各構成部材の設計指針の確立とさらなるデバイス高性能化の進展が期待されるとしている。