筑波大学の研究グループは,昆虫であるカナブン類のさやばね内部に,表面の構造色の反射だけでなく,マルテーゼクロスと呼ばれる十字型の影をもつ球状の構造(球晶)を発見した(ニュースリリース)。
タマムシやオサムシ,コガネムシなど昆虫の外骨格は美しい構造色を示す。これは,主としてさやばねが,らせん構造をもつコレステリック液晶のような規則的な構造を持つことに由来する。
コレステリック液晶は分子がらせん状に積層構造を形成したもので,このらせん構造の一周分が,流動的に固体と液体の中間状態を維持している。らせんの周期が可視光の波⻑と干渉すると,選択反射により特定の光を反射する。
研究グループはこれまでに,人工的に合成された液晶中で導電性高分子を合成し,その液晶のらせん状の会合体(同一の分子が複数結合し,単一分子のようにふるまう)の構造を転写した光学活性導電性高分子を作成するとともに,その微細構造を,走査型電子顕微鏡や偏光顕微鏡で観察し,液晶の会合状態について検討を重ねてきた。
今回研究では,電子顕微鏡および特殊な偏光顕微鏡を用いて,さまざまな昆虫のさやばねを観察し,それらの像に見られる形状を比較するとともに,高エネルギー加速器研究機構の放射光X線回折法により,構造を分析した。
その結果,外骨格を有するカナブン類のさやばねが液晶構造を持つことを発見した。特に,つくば市内で採集した,エメラルドグリーンの金属色に輝くオサムシでは,マルテーゼクロスと呼ばれる十文字型の影を持つ球状の結晶(球晶)構造が観察された。
一般にマルテーゼクロスは,合成液晶に見られるもので,昆虫などの生体においてはこれまでに報告例はない。また,今回観察された構造は,人工的に作成したコレステリック液晶に見られるマルテーゼクロスと似たような形状であることが分かった。さらに,さやばねの放射光X線回折分析および走査電子顕微鏡観察により,周期的な構造を持つことが明らかになった。
同様に,他のカナブン類のさやばねを観察したところ,オサムシのマルテーゼクロスは整然と並んでいるのに対し,タマムシでは不規則に並んでいた。また,コメツキムシでは楕円上のマルテーゼクロスの配列が見られた。
これは,甲虫の種類に応じて,同様の液晶性構造からマルテーゼクロスが形成される,すなわち,同じ種類の生物から進化したことと関わっている可能性が考えられるという。
研究グループは,今後,昆虫のマルテーゼクロスが持つ役割について調べるとともに,合成液晶ポリマーと比較し,その強度や柔軟性などの物性を検討するとしている。