阪大ら,レーザー中性子とX線で同時瞬間撮影

著者: sugi

大阪大学,神戸大学,量子科学技術研究開発機構,福井工業大学,英クィーンズ・ベルファスト大学,英インペリアル・カレッジ・ロンドンは,レーザーを使って,中性子とX線を同時に生成し,対象物質を瞬間撮影する技術を開発した(ニュースリリース)。

レーザーを極めて短い時間に小さい領域に集中すると,あらゆる物質が電子とイオンに分離した「プラズマ」になる。この高密度のプラズマからは,高エネルギーの陽子などの粒子やX線が発生する。

さらに,生成した高エネルギーの陽子をベリリウムに照射すると,非常に短い時間幅で中性子を生成できる。このような中性子は物質の透過画像を瞬間的に撮ることができるが,そのためには中性子と物質が反応しやすいよう,中性子のエネルギーを下げる必要がある。

一方,X線は中性子による透過画像とは異なる種類の画像を撮ることができるため,X線と中性子の透過画像を同時に撮ることが望まれていた。

研究グループは,レーザーを用いて陽子と重陽子を効率良く生成する研究を行なってきた。この原理を応用して,レーザーで生成した陽子・重陽子から多数の中性子を生成してかつ,中性子の数をあまり減らさずに中性子のエネルギーを下げる装置を製作した。また,X線の透過画像と中性子の透過画像を同時に計測できる検出器を開発した。

これらの装置の性能を試験するために,カドミニウムを含まないニッケル水素電池,カドミニウムを含むニッカド電池,炭化ホウ素粉末の入った容器の3種類の物体を用意した。炭化ホウ素は原子番号が小さいためにX線の透過画像ではほとんど写らない。一方,カドミニウムは人体に有害であるため識別できることが期待されている。

レーザーで生成した中性子とX線で同時に10万分の1秒の時間で瞬間撮影したところ,X線の透過画像では,予想された通りに炭化ホウ素が写らなかった。カドミニウムを含む ニッカド電池と,カドミニウムを含まないニッケル水素電池は写ったが両者の成分は識別できない。

中性子で撮影した画像では,3種類の試料が全て写った。X線画像に写らず中性子画像のみ写る物体の組成は,炭化ホウ素のような原子番号が小さい物質であることが分かる。中性子の画像を詳細に分析すると,画像の濃さから,カドミニウムを含むニッカド電池と含まないニッケル水素電池を識別できた。さらに,充電池に内蔵されているカドミウムの厚さを計ることもでき,画像から写っている物質を推定することができることを示した。

研究グループは,X線と中性子では撮影できる物質が違うため,これまで見えなかった高速の現象を撮像する技術に繋がるとしている。

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