中部大学と高知大学は,発光するサメの光る仕組みを解くカギとなる物質を特定した(ニュースリリース)。
「発光するサメ」であるフジクジラは,深海に住んでおり,姿をめったに見せないため,その発光の役割や発光の仕組みなど,未だに謎が多い。
フジクジラは腹側全体を青色に発光させることができる。大きさは30cmくらいで全身は真っ黒だが,少し藤色をしているのでこの名で呼ばれている。日本全域の海で見られるが,いつもは深さ250~860mの深海にいるのでまとまって漁獲されることはなく,水族館で長期飼育された例もない。
フジクジラのは自分の姿を消すために発光する。深海には隠れる場所がないため,深海までわずかに降り注ぐ太陽光のせいでできる自分の影ができると,捕食者に見つかりやすい。そのため,フジクジラは降り注ぐ太陽光の強さに合わせて腹を光らせ,下から敵に見上げられた時のシルエットを消す。
この方法は「カウンターイルミネーション」と呼ばれる。一方,このサメが光る仕組みの解明に多くの研究者が取り組んできたが,何の手がかりも得られず「解けない謎」とまで言われていたという。
今回,研究グループは,そのカギとなる物質(生物発光基質)が,セレンテラジンであることを明らかにした。これは,下村脩博士(2008年ノーベル化学賞)がオワンクラゲから見つけた物質と同じもの。
セレンテラジンは,フジクジラが自分で作っているわけではなく,ハダカイワシなどの発光する魚類を食べ,そこから手に入れていると考えられるという。つまり今回,深海では食物連鎖によって光る生物を食べることで光る生物がいることが分かった。
さらに,セレンテラジンは,3つのアミノ酸が組み合わさってできたペプチド様の分子であることから,フジクジラは,食べた魚に含まれていたセレンテラジンが胃の消化酵素で分解されずにそのまま選択的に吸収されて腹側の発光器に輸送されるという,まだ未知のメカニズムを持っていることになる。
研究グループは,これをさらに研究することで,これまで難しかったペプチド医薬品の経口投与の実現への応用可能性が開けるとしている。