新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所は,高周波回路などに使われる金属張の誘電体基板に対し,誘電率と導電率の温度特性を10GHz~100GHz超の超広帯域で計測する技術を確立した(ニュースリリース)。
ミリ波対応材料の設計・開発では,誘電体基板の誘電率と基板表面に形成される金属層の導電率が回路の伝送損失を決めるパラメーターとなる。
従来技術では室温環境下においてミリ波帯での材料の誘電率や導電率を計測することは可能だったが,屋外設置のアンテナ・レーダーなどの回路やデバイスで想定される幅広い使用温度域における計測技術は確立できておらず,実使用環境下で想定される幅広い温度域での低損失化に向けた材料開発の支障となっていた。
研究グループは,高周波回路に使用する材料の誘電率と導電率の温度特性を10GHz~100GHz超の超広帯域で計測するため,温度制御可能な超広帯域動作の共振器を開発した。
この装置は,ミリ波帯での超広帯域な材料計測が可能な平衡型円板共振器に対し,銅板に埋め込んだヒーターと熱電対で共振器を局所加熱して温度制御することで,大型の恒温チャンバーや耐熱性ミリ波ケーブルなど大掛かりで高コストな部材を用いることなく,100GHz超までの超広帯域にわたる材料計測を室温から100℃までの温度域で行なえるという。
開発した温度特性計測技術の有効性を検証するため,シクロオレフィンポリマーと合成石英を対象に誘電率(比誘電率と誘電正接)の温度依存性を計測した。また,シクロオレフィンポリマーについては基板表面に形成した金属層の導電率の温度依存性も計測した。
誘電体基板材料の誘電率と導電率の温度特性を実験的に把握することにより,材料設計・開発へのフィードバックだけでなく,計測した材料を使った回路性能やデバイス性能の温度依存性の推定が可能になる。
たとえば,誘電率と導電率の温度特性の計測結果を用いたシミュレーションにより,シクロオレフィンポリマー基板で構成された回路の125GHzにおける単位長さ当たりの伝送損失(dB/cm)は,25℃から100 ℃への温度上昇に伴い,約18%増大することがわかったという。
産総研は今後,開発した材料計測技術と計算科学やプロセス技術を融合し,データプラットフォームの拡充に取り組む。幅広い温度域での低損失化が要求されるミリ波対応先端材料の開発を後押しするとともに,材料の開発段階で回路・デバイスの実使用環境下における温度域での特性を高精度に推定できるようになり,開発期間の短縮が期待できるとしている。