産業技術総合研究所(産総研)と日亜化学工業は,全方向に可視波長全域の光を放射するLEDを用いた新しい標準光源である全方向形標準LEDの試作品を開発した(ニュースリリース)。
照明光源の全光束値をメーカーが必要とする精度で正しく求めるためには,標準光源を使用する必要がある。これまで主に白熱電球形の標準電球が用いられてきたが,近年のLED照明の普及に伴い,白熱電球の製造縮小・停止の影響が標準電球にも及んでいる。標準電球に代わるLEDを用いた新しい標準光源の研究開発が行なわれているが,既存の標準電球の役割を十分に代替する光源はまだ開発されていない。
研究グループは今回,可視波長全域の光を全方向に均等に放射する全方向形標準LEDの試作品の開発に成功した。開発した全方向形標準LEDは,市販の電球形LEDランプの全光束測定で使用することを想定し,電球形LEDランプと同程度の大きさとなるよう設計した。
標準光源に必要とされる光強度の安定性を実現するため,全方向形標準LED内部には発光部の温度を一定に保つための温度制御機構が実装されており,この機構により,点灯後の光強度の変動を小さく抑えることに成功した(8時間の点灯で0.01%)。
さらに,複数回繰り返して点灯した場合の光強度の変動は0.02%以下であり,これらの特性は,既存の標準電球に匹敵する特性だという。また,周囲の温度変化(23°C±5°C)に対する光強度の変動は0.02%/°Cに抑えた。また,LED素子や蛍光体の組み合わせの最適化によって,一般的なLED照明のスペクトルよりも十分に広い,可視光のほぼすべての波長範囲をカバーした。
全方向形標準LEDでは,拡散ドーム内にも,光を後方に導くキャップ型の光学系を組み込むことで,口金方向を除き,背面方向まで含めた全方位へ均等に光を放射する配光を実現した。既存の標準電球の配光にはフィラメント形状に依存した細かな凸凹が存在するが,全方向形標準LEDの配光はそれよりも滑らかで広く,標準光源としての特性を十分に満たしているという。
今回開発した全方向形標準LEDを標準光源として,複数の市販電球形LEDランプの全光束測定を行なったところ,既存の標準電球を標準光源としたときと同等の結果が得られ,標準光源として十分に有用であることを確認した。
研究グループは今後,必要な全光束値を実現するための点灯電流レベルに応じた放熱機構の設計最適化を行なって,実用化を目指す。また,全方向形標準LEDの測定をより精度良く測定するため,全光束や分光測定方法の高度化を進めるとしている。