理研ら,アト秒パルスで1京分の3秒の分子応答観測

理化学研究所(理研)と東京大学は,多原子分子の一つであるアセチレン分子に「アト秒パルス光」を照射し,1京分の3秒(3×10-16秒)という世界で最も短い時間幅の「自己相関計測」に成功した(ニュースリリース)。

原子や分子などの物質に光を当てたときの変化を観測するために,最近ではフェムト秒パルス光より短いパルス幅を持つ,アト秒パルス光の研究が行なわれている。

アト秒パルス光は,高強度のフェムト秒パルス光(基本波)を希ガス中に集光することで得られる。アト秒パルス光の波長を測定すると,基本波の奇数分の1の波長成分がくし状に並び,その起源が基本波に対する「高次高調波成分」であり,また,複数のパルス光が一定時間間隔で並んだ構造を持つ「アト秒パルス列(APT)」であることも分かる。

研究所グループはAPTによって分子を励起し(ポンプ),その反応の様子をもう一つのAPTで探る(プローブ)研究を行なっており,今回は多原子分子であるアセチレン分子(C2H2)を標的としたビームラインを開発した。

この装置では,真空中のキセノンガスにパルス幅15fsの高強度チタンサファイアレーザーパルス光を基本波として集光し,APTを発生させる。これをシリコンの反射鏡(SiBS)で反射すると,基本波とAPTは同軸で伝播するため,基本波はほとんど取り除かれる。

SiBSは2枚を上下に並べて配置されており,その境界付近でAPTは反射され,二つのビームに分割される。これら二つのビームの時間遅延掃引は,精密移動ステージ上に設置されている下側のSiBSの位置を精密に制御することで行なう。

分割された二つのAPTは,速度マップ画像取得型(VMI)イオン分光器の中の凹面鏡によって集光される。集光点にはアセチレンを供給し,生成したイオンをVMIイオン分光器で測定する。

このとき二つのAPTの間の時間遅延掃引を行なうことで,イオン生成に関わるAPTポンプとAPTプローブの信号が,イオンの生成量あるいは角度分布から得られる。この手法は,同じAPTを二つに分けて利用することから「自己相関計測」と呼ばれる。

研究所グループは,APTをアセチレン分子に集光し,発生する3種類のイオンのエネルギーと角度分布を測定した。その結果,炭素イオンの生成量がAPTの自己相関波形と分子の時間応答を反映したものであり,その相関時間幅が300アト秒(1京分の3秒)であることが分かった。

研究所グループは,アト秒領域の分子の時間応答が解明されることで,より一般的な光による化学反応過程の制御などへの応用につながるとしている。

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