阪大,マシンビジョンで細胞100万個同時観察

大阪大学の研究グループは,1cmを越える大視野の中の個々の細胞動態を観察できる光イメージング法の開発に成功した(ニュースリリース)。

希少細胞をターゲットとして研究するためには,膨大な数の細胞からなる細胞集団のダイナミクスとその中の個々の細胞のダイナミクスの同時観察を可能にする光イメージング法が必要であり,倍率と視野角がトレードオフの関係にある一般的な生物顕微鏡は,ツールとしては不十分だった。

研究所グループは,マシンビジョン分野で用いられるカメラに注目。生物用に比べて画素数が非常に大きく,センサーサイズも生物顕微鏡よりも大きいものがあり,対応したレンズも存在する。そこで1.2億画素CMOSセンサーと倍率2倍のテレセントリックマクロレンズを組み合わせるアイデアに至った。

テレセントリックマクロレンズと1.2億画素CMOSカメラを直結して,試料下側から観察する。蛍光観察のために3色の高輝度LED光を備えており,これらを試料の斜め下から入射することで試料中の蛍光を光らせる。斜めに入射することで,LED光が観察用のレンズに入らず,背景光の少ない蛍光観察が可能となる。

蛍光ビーズ(緑色,200nm直径)を視野全域に散布して,観察した結果,視野サイズは1.46×1.01cm2で,視野の中心でも辺縁部でも同等のイメージング性能が得られており,空間分解能はこの波長でおよそ2.3µmであることが分かった。これは理論値とほぼ一致していて,単細胞を空間分解して観察するのに十分な分解能だという。

細胞を観察したところ,視野全域でほぼ同様のクオリティの画像が得られ,このケースでは撮像時間は透過光像,蛍光像とも1秒で,119万細胞を同時に観察できることが分かった。これはフローサイトメトリーと比べても,多数の細胞を瞬時に解析できることを意味し,しかも,細胞の空間分布や経時変化の情報を得ることが出来る。

カルシウムインジケータ蛍光タンパク質が発現する細胞のカルシウム動態を動画として観察した結果,視野全域でおよそ12万個あるHeLa細胞のうち0.0017%,394個の細胞でカルシウムイオン濃度上昇の検出に成功した。

研究所グループは,大量の細胞をライブ観察することで,稀少細胞に関する既存の謎を解明するとともに,新たな研究対象を発見することができるとする。主に市販品のレンズとカメラで構成されたこのシステムは,小規模な研究室でも簡単に導入でき,新しい科学分野の創出に貢献できるとしている。

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