量子科学技術研究開発機構と群馬大学は,細胞イメージングや極微量ウイルス検出などへの活用が期待される蛍光ナノダイヤモンドの検出効率を大幅に向上する新規イメージング手法の開発に成功した(ニュースリリース)。
蛍光を用いた生体イメージング技術は生命現象の解明に広く用いられている。また,ウイルス検査などの臨床検査等においても,蛍光検出は重要な基礎技術となっている。しかし,自家蛍光など望ましくない位置にも発光が観察される「背景光」の存在により,偽陽性などの誤った結果がもたらされる場合もある。
研究グループは,窒素-空孔中心(Nvセンター)と呼ばれる原子配列の乱れを含むナノサイズの蛍光ダイヤモンド(蛍光ナノダイヤモンド)を蛍光試薬として使用し,レーザー光による量子操作を行ないながら蛍光検出することで,背景光の影響を排除した超高感度蛍光イメージング技術を開発した。
この手法では,①長周期のレーザーパルス中では乱雑なスピン量子状態を,短周期のレーザーパルス中では秩序的なスピン量子状態を取る,②この秩序的なスピン量子状態では、乱雑なスピン量子状態と比較して蛍光強度が増強するという,Nvセンターの性質を利用しているという。
自家蛍光や夾雑物の蛍光のような背景光ではこの速さのレーザーパルス周期に依存した蛍光強度変化は起こらないため,秩序的なスピン量子状態の画像と乱雑なスピン量子状態の画像とで差分を取ることにより,蛍光ナノダイヤモンドから発する蛍光を選択的に取得し,画像化することができる。
この方法は一般的な蛍光イメージングと比較して,高い背景光排除効果を発揮し,信号/背景光比(Sbr値)にして100倍以上の性能向上に成功した。
今回開発した手法の活用により,細胞内にわずかしか存在しない分子であっても特異的かつ高感度に検出することができる。これまで観察できなかった少数分子の機能の解明や,病態に及ぼす影響の解析に役立つと考えられるという。
また,ウイルスを超高感度で検出する技術として近年注目される「量子診断プラットフォーム」にも,この技術をそのまま利用できることから,研究グループは,ウイルス感染症の早期・迅速診断技術としての社会実装も期待できるとしている。