京都大学の研究グループは,がん細胞内にヨウ素元素を含むナノ粒子を取り込ませ,これにX線を当てることで,がん細胞のDNAを切断し,細胞死を誘導できることを明らかにした。また,X線のエネルギーを調整することで,DNA切断の効率を高められることを明らかにした(ニュースリリース)。
放射線治療は,X線の大部分が細胞内の水に作用し,その結果発生する活性酸素がDNAを切断する。そのため,特に低酸素状態であるがんの中心部では活性酸素ができにくく,治療の効率が悪くなるという課題があった。
研究グループは,多孔性シリカにヨウ素を含ませ,がん細胞に送り込むことを目指した。このナノ粒子はがん細胞に効率よく取り込まれ,細胞核の近くに留まり,がんのかたまり全体に万遍なく散らばる。さらにナノ粒子はがんに蓄積する能力をもっている。
今回,研究グループは光電効果に注目。光電効果が起きると原子内で連鎖反応が起き多数の電子が放出される。光電効果をがん細胞の中で再現し,がんの中心部に対しても効率的な放射線治療法の開発を目指した。
研究グループは,まずヨウ素を含み生体内で分解される安全性の高い多孔性シリカのナノ粒子を合成した。こうしてできたナノ粒子はがん細胞に効率よく取り込まれがん細胞の核の近傍にヨウ素を運ぶことができる。この時,がん細胞にX線をあてると光電効果によりヨウ素から電子がたたき出され,細胞核にあるDNAの切断をひきおこす。
今回の研究では,三次元のがん細胞のかたまりであるがんスフェロイドを用い,ヨウ素を含んだナノシリカが存在する状況下ではX線の照射時間依存的にがんスフェロイドを破壊することができた。
解析の結果,DNAの二重鎖切断が起きていること,またその結果として細胞死(アポトーシス)が起きていることを確認した。興味深いことに,X線のエネルギーを増やしてDNA二重鎖切断への影響を見た結果,最適効果をもたらすピークを観察し,X線のエネルギーを調節できることが示された。
電子を放出させるためには,一定の強さのエネルギーをもったX線を照射する必要がある。ヨウ素の場合は33.2keVであり,この値を超えると電子が放出されるが,エネルギーが高すぎると効果がさがってしまった。
ヨウ素はCTスキャンなどの診断に用いられており,広くがん治療,診断に役立つ可能性もある。今回の成果はDNAへの直接効果が期待さるため,研究グループは,がんの中心部のような低酸素条件下でも使うことができるとしている。