熊本大ら,XMCDのベイズ分光の元スペクトルを再現

熊本大学と東京大学は,磁石材料のニッケルフェライトを想定した人工XMCDスペクトル解析にベイズ分光法を適用し,左右円偏光X線で計測されるX線吸収(XA:X-ray Absorption)スペクトルの差分であるXMCDスペクトルだけから,元のXAスペクトルを再現した。さらに,そのスペクトル解析で得た各スペクトル成分のスペクトル強度の事後確率分布から,磁気モーメントとその誤差の推定に成功した(ニュースリリース)。

ベイズ推定は因果律をさかのぼって現象の原因を評価する方法で,データ駆動科学における学理構築法。

XMCDスペクトルは,左回りと右回り円偏光X線によるスペクトル変化を高感度に検出するために,左右円偏光X線それぞれで計測される2つのX線吸収(XA)スペクトルの差分スペクトルとして計測される。しかしその結果スペクトルは複雑化してしまい,従来のスペクトル解析では,元の2つのXAスペクトルの再現は不可能だった。

そこで研究では,ベイズ分光法を用いれば,XMCDスペクトルから因果律をさかのぼって,元の2つのXAスペクトルの再現を実証した。実証には,計測データを模倣してノイズを重畳させて合成した人工XMCDスペクトルを解析対象とした。想定した磁石材料はニッケルフェライト(NiFe2O4)で,そのニッケルイオンのL吸収端を想定した。

ベイズ分光法は,因果律の結果にあたる計測スペクトルに対し,その結果を与える原因(物理モデル)の候補が複数提唱できる場合,計測データだけから,先入観なくそのモデル選択ができる。

研究ではそれを用いて,XMCDスペクトルを解釈するために必要となる,左右円偏光XAスペクトルそれぞれのスペクトル要素数を推定するモデル選択を行ない,左右円偏光それぞれのXAスペクトルの再現に成功した。

このようにベイズ推定に基づいて因果律をさかのぼることが実現され,左右円偏光XAスペクトルのスペクトル構造が評価可能となることから,磁石材料のスピン分裂状態の抽出分解が実現できる。

また,ベイズ分光法は,全ての推定量の事後確率分布が評価できることがのもう1つの利点となる。これまで磁石材料の磁性を特徴づける磁気モーメントの大きさの評価は,XMCDスペクトルの積分で行なわれてきたが,得られる値は点推定となり,その推定精度の評価は不可能だった。

それに対し研究で用いたベイズ分光法では,左右円偏光それぞれのXAスペクトル強度が分離・抽出できることから,磁気モーメントの誤差評価を実現した。研究グループでは,今後,様々な磁性材料の磁性計測に応用することで,新たな発展が期待できるとしている。

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