金沢大学,名古屋大学,国立極地研究所,電気通信大学,京都大学は,宇宙で発生するコーラス波動が伝搬する様相とオーロラ発光の数値計算を組み合わせ,突発発光オーロラ(フラッシュオーロラ)の形状変化を再現することに成功した(ニュースリリース)。
人工衛星に搭載される電子機器の故障を引き起こす危険な放射線電子の発生と消失の両方に,宇宙で発生する電磁波の一種であるコーラス波動が関わっていることが知られている。これまでの観測より,コーラス波動は宇宙の発生域から地球磁力線に沿って伝搬しながら,高エネルギー電子を地上へ降下させ,フラッシュオーロラを発光させていることがわかっていた。
しかし,フラッシュオーロラを光らせる高エネルギー電子とコーラス波動が宇宙で相互作用する領域(波動粒子相互作用領域)がどのように変化しているのかは,広い空間の様相を知るには多数の科学衛星による同時観測が必要になるため,詳細は十分わかっていなかった。
研究グループは,アラスカに設置された高感度かつ高時間分解能カメラで撮影されたフラッシュオーロラの発光分布の空間変化を解析した結果,北半球で観測されたフラッシュオーロラは北側(高緯度側)よりも南側(低緯度側)へ 2.4倍も大きく拡大する傾向があることを明らかにした。これは,コーラス波動とオーロラの基となる高エネルギー電子が生じる宇宙の波動粒子相互作用領域の拡大を表していることになる。
この要因を明らかにするため,宇宙でのコーラス波動の詳細な伝搬解析と電離圏でのオーロラ発光計算を組み合わせる計算モデルを新たに開発し,コンピュータ上で地上より観測されたフラッシュオーロラの形状変化を再現することに成功し,フラッシュオーロラが低緯度側に拡大するのは,宇宙のコーラス波動が発生域につながる磁力線から少しずつ逸脱し地球側に偏って伝搬するためであることを明らかにした。
さらに,コーラス波動がより発生域から離れて伝搬できるほど,地上から見えるフラッシュオーロラの空間サイズが拡大することを新たに提唱した。コーラス波動がより発生域から離れて伝搬すると,コーラス波動の振幅がより大きくなることが示唆されており,オーロラ空間サイズからコーラス波動の伝搬の様子だけでなく,コーラス波動の振幅変化を知る手がかりになる可能性があるという。
研究グループはこの研究により,地球を取り巻く放射線電子を予測する新たな計算モデル開発やモデル改良への貢献が期待されるとしている。