名古屋大学の研究グループは,グラフェン/ダイヤモンド積層界面が,重要な光情報のみを選択的に記憶し,不要な情報を忘却する脳型(脳の様に動く)光記憶素子となることを新たに見出した(ニュースリリース)。
人間の脳では記憶すべき情報の取捨選択が状況に応じて瞬時に行なわれており,強い印象すなわち,刺激の大きな情報は長期記憶されるが,刺激の少ない情報については短時間記憶された後忘れられる(短期記憶)。この長期-短期記憶の存在が脳における情報選別の根幹となる。
研究グループは,グラフェン/ダイヤモンド6素子を画素として用い,2×3型で配列した構造で,画像(文字パターン,I及びL)の検出を試みた。文字パターン“I”の場合は,I字のパルス光を多数照射し,強い光刺激を与える形(重要な情報に対応)とし,“L”の場合は,L字のパルス光を少数照射し,弱い光刺激を与える形(不要な情報に対応)とした。
結果として,Lパターンは記憶後すぐに忘却(短期記憶)されたのに対して,Iパターンは長時間記憶(長期記憶)されることが分かった。この結果は,グラフェン/ダイヤモンド配列構造がイメージセンサとして機能しており,更に光刺激の頻度に応じて光情報が選択的に記憶・忘却されることを意味する。
このグラフェン/ダイヤモンド素子は,光刺激を検出し電気抵抗値に変換すると共に,光刺激の強弱に応じて抵抗値の記憶保持時間が切り替わる,シナプス類似の記憶特性を有しており,1つの素子のみで人間の眼と脳の機能を併せ持つ事が明らかとなった。
なお,脳内シナプスでは電気的な刺激で結合強度変化が起こるが,この素子では光刺激で結合強度変化が起こるため,画像等の光情報が素子で直接検出され,その後,情報の重要度(光刺激の頻度)に応じて自律的に記憶・忘却されることが大きな特徴だとする。また,このデバイスでは素子全てに同時に光が照射され,光検出・記憶動作が全素子で同時並列的に行なわれるので高速動作が期待できるという。
この成果を発展させていくことで,センサ側で光情報を取捨選択して瞬時に記憶する新型イメージセンサなどの作製が可能となり,膨大な情報を自動で取捨選択し重要な情報のみを検出・記憶,即時処理する新型光コンピュータや高性能カメラの創出に繋がるとしている。